【専門家インタビュー】幅広い年代に関わる子宮筋腫。新しい治療「UAE」とは?

厚生労働省の調査(2011年)によると、30〜40代女性の約4人に1人にできているという子宮筋腫。「微小なものを含めると月経のある人の7、8割に見られるとされています」と久留米大医学部産婦人科学講座 主任教授の津田尚武氏は話します。多くの人に関わる同病の基礎知識、新しい治療法、閉経後でも注意が必要とされる理由などを聞きました。

話を伺ったのは?

「閉経していても油断は禁物。筋腫がある場合はサイズを把握しておくのが大事です」と津田尚武教授

久留米大医学部産婦人科学講座
主任教授 津田尚武氏

1971年生まれ、97年久留米大医学部卒、同大医学部産科婦人科学教室入局、2011年同大大学院医学研究科修了、14年米国テキサス大MDアンダーソンがんセンター留学、15年久留米大医学部産婦人科学講座講師、21年同准教授、23年現職

目次

子宮や周辺臓器を圧迫することで貧血、頻尿、便秘に

「子宮筋腫は最も多い訴えは月経量が増え、長引くという症状。それが貧血を引き起こして体調不良に」

―今回のテーマは子宮筋腫です。

良性腫瘍の中で最も罹患頻度の高い疾患であり、婦人科に診療に来る人の理由のトップでもあります。さらに幅広い年代の女性に関係がある病気です。

―どのような病気でしょうか。

子宮の平滑筋という筋肉の中にできる良性の腫瘍を指し、悪性のがんとは異なります。月経(生理)のある女性の2〜4割に症状が認められ、ごく小さな腫瘍を含めると7、8割にも達するといわれます。
筋腫ができる原因ははっきりとは分かっていませんが、初経とともに少しずつでき、増殖には女性ホルモンのエストロゲンが関連していて、40歳前後に最も増え、一般的に閉経後は縮小します。

筋腫の発生部位によって3種類(粘膜下筋腫/筋層内筋腫/漿膜下筋腫)に分類されます。また、この3種類が複数合併し、数も多発するケースが多いですね。腫瘍自体はゴムボールのような硬さで、周囲の子宮筋層からは区別できます。

―どんな症状が現れますか。自覚症状は。

筋腫の大きさにもより罹患者の約半数は無症状といわれますが、残り半数には、さまざまな症状が現れます。腫瘍が子宮内膜をはじめ膀胱や尿路、大腸など子宮外の臓器を圧迫することから、最も多い訴えは月経量が増え、長引くという症状。さらにそれが貧血を引き起こし、体調不良につながる場合も。ほかには生理痛、頻尿、腰痛、便秘などが挙げられます。

また粘膜下筋腫では、妊娠しにくくなるリスクも出てきます。受精卵はふかふかのベッドのような内膜に着床するのですが、筋腫があることによって着床や定着ができず流産につながる場合も。筋腫が多発している状態で妊娠すると早産や流産の原因にもなるので注意が必要です。

症状や患者の希望で変わる治療。開腹しない「UAE」

―診断や主な治療法について。

内診、エコー(超音波断層法)、MRIなどで診断します。中でもMRIは筋腫の位置や大きさ、複数が重なっていても分かるので大変有用な検査です。悪性腫瘍(肉腫)と見分ける上でも役立ちます。
治療は自覚症状、年齢、本人の希望を考慮して決めていきます。無症状で筋腫のサイズが巨大でなければ経過観察する場合も多いです。不妊症や不育症の原因と考えられる場合、妊娠中や出産時にトラブルを引き起こす可能性がある場合は治療を推奨しています。

―では月経困難、過多月経など症状がある場合は。

鉄剤、止血剤、鎮痛消炎薬などで症状の緩和を図る対症療法と手術療法があります。手術は子宮を摘出するケースと温存するケースがあり、開腹と腹腔鏡など開腹しない場合に分かれます。また、主に手術前などに薬で偽閉経状態にする偽閉経療法もあり、これは副作用の関係で最長6カ月の治療期間としています。

―久留米大学病院では「子宮動脈塞栓術(UAE)」にも積極的に取り組まれていますね。

UAEは、開腹せずにカテーテル(細い管)を用いる新たな治療選択肢です。大動脈からカテーテルを挿入し、筋腫に栄養を与えている子宮動脈に塞栓製剤「エンボスフィア」を注入して血流をふさぐことで、筋腫を縮小させていきます。筋腫の個数や大きさにかかわらず適用できます。
久留米大学病院では2016年から放射線科と婦人科の連携体制のもとUAEを開始。UAE実施は画像下治療の技術を持つ放射線
医が担当しますので、放射線科と婦人科の密な連携と協力が非常に重要であり、実施はそれが可能な施設に限られます。

―おなかを切らないというのは、ありがたいですね。

局所麻酔なので体への負担が少なく、入院日数、社会復帰への期間が短いのが大きなメリット。子宮温存を希望する人にも適し、手術痕もほとんど残りません。ただし、筋腫のサイズが大き過ぎる、将来妊娠を希望する、悪性腫瘍との区別が難しいなどUAEに適さないケースもあり、事前に十分検討します。
久留米大学病院ではこれまで約60例を実施していて、患者さんへのヒアリングでは、術後1年も経過すると自覚症状は9割弱くらいなくなるという回答で、満足度も高いといえそうです。学術論文でも多くの有効性が報告されています。

閉経後も要注意。定期検診で把握を

「筋腫だけでなく子宮体がんや頸がんの心配もあります。いくつになっても定期検診を心がけて」

―生活上での注意点などがあれば。

かかりつけ医を持ち、まずは定期的なエコー検査を推奨します。筋腫がすでにある場合はサイズの変化を把握しておきたいですね。もちろん子宮体がんや頸がんの検診も必要です。また、内臓脂肪からエストロゲンが多く分泌されるので、肥満に気を付けた生活を。

―閉経後はエストロゲンが減少するので安心ですか。

それが、そうでもないのです。閉経後に筋腫が大きくなったり、不正出血があったりする場合があり、子宮肉腫の危険サインかもしれず要注意です。何か別の病気が隠れている可能性もあるので、閉経しても気を抜かずに。

現代の女性は忙しい人が多く体のケアがおろそかになりがちですが、年齢に関係なく、ぜひ産婦人科で定期検診を受けましょう。気になることは気軽に相談を。

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