【専門家インタビュー】増えるパーキンソン病、動きの鈍化「放置」は禁物

 米ハリウッド俳優のマイケル・J・フォックス氏や、日本ではみのもんた氏も罹患(りかん)を公表しているパーキンソン病。社会の高齢化に伴い、有病者は世界中で増加しています。時間をかけて進行する病で、運動機能にとどまらず認知機能にも影響を及ぼします。発病の原因など解明に至っていない点も多く、根治する方法も見つかっていない国指定の難病。久留米大医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原(こうげん)病内科部門の谷脇考恭教授に現在の増加状況や症状、治療法などを聞きました。

話を伺ったのは?

「 震えがある、体が硬くなる、動きが遅く小さくなる、後ろに転びやすくなる、が主な症状です」と谷脇考恭教授

久留米大医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門
教授 谷脇考恭氏

1958年生まれ。84年九州大医学部医学科卒。91年米国立衛生研究所留学。2003年九州大大学院医学研究院臨床神経生理 助教授。04年同神経内科学助教授。06年久留米大医学部呼吸器・神経・膠原病内科 准教授。08年現職

目次

加齢や異常タンパクで脳内の神経細胞が減少

「世界中でパーキンソン病の罹患者が増えています」

―まずパーキンソン病患者の増加傾向について教えてください。

 国の統計によると、私が学生だった1980年には10万人当たり約45人という割合でした。これが2002年には約141人と3倍になりました。現在は200人、高齢者では100人に1人とみられています。海外のデータを見ると、欧州では80歳過ぎの約25人に1人が有病者だといわれています。世界中で高齢者が増えているため、パーキンソン病のいわば“パンデミック”が起こるのではないかと危惧する声もあります。

―パーキンソン病に罹患(りかん)する原因は。

 脳内では中脳黒質の神経細胞に含まれるドーパミンなど神経伝達物質が、各部に情報を伝えています。パーキンソン病の人は、この黒質のドーパミン神経細胞が減少しています。そのために脳の全体のバランスが崩れてしまい、動きが硬くなったり震えが出たりするといわれています。神経細胞は誰でも年齢を重ねると徐々に減っていくものですが、パーキンソン病の人は早くから減少します。

―神経細胞はなぜ減るのでしょうか。

 昔からいろいろな説がありました。まずは環境因子説です。1980年代に環境因子、何らかの神経の毒を摂取したことによると考えられていました。90年代になると遺伝子学が発達して、遺伝子に異常があるということが分かりだしました。ただ、遺伝子異常がある人はごく一部で全部は説明できません。現在では、これらに加齢が加わり、結果的に異常タンパクであるα(アルファ)シヌクレインが蓄積して発病すると考えられています。

発病に食生活などは影響しますか。

 危険因子は、まず農薬です。あとは重金属やマンガン。金属類の過剰摂取は悪いようです。マンガンは溶接をする人が非常に浴びます。また、飽和脂肪酸、コレステロール、高カロリー摂取も危険因子とされています。
 一方で防御因子にはコーヒー(カフェイン)があります。意外なのは尿酸で、尿酸値が高い人はパーキンソン病になりにくいようですが、あまり高いと痛風になります。喫煙も防御因子ですが、もちろんお勧めできません。

震えや硬直など四つの症状に注意

―発病すると、どんな症状が出ますか。

 四つの運動症状があります。一つは安静時(じっとしている時)に震えがある、二つ目は体が硬くなる、三つ目は動きが遅くなる、小さくなる、四つ目は後ろに転びやすくなる。動きが遅くなるのが中心の症状で、それに加えて安静時の震えか体の硬さがあるのがパーキンソン病です。

―そのような運動症状があってもパーキンソン病ではなく、パーキンソン症候群であるケースも見られるそうですね。

 こうした症状がある人のうち約75%はパーキンソン病ですが、約25%はパーキンソン症候群です。最初はそこの見極めが診断のポイントになります。なぜ分けるかというと、パーキンソン病は飲み薬が効きますが、症候群にはあまり効きません。
 症候群には薬剤性、小さな脳梗塞が多くある血管性、進行性核上性まひ、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症、レビー小体型認知症、頭に水がたまる正常圧水頭症などがあります。

―パーキンソン病との診断を受ける以前に、兆候として注意する症状はありますか。

 診断がつく20年ぐらい前から便秘、10年ぐらい前からレム睡眠行動異常といって就寝中に夢を見て大きな寝言を言ったり暴れたりします。一番多いのは嗅覚の低下。うつになる人も多いです。

―進行すると認知機能には影響しますか。

 排尿障害、起立性低血圧のほか、認知機能の低下や認知症も出てきます。また、幻視が出やすくなります。患者さんの中には「虫が見える」とか「小さな子どもがそこにいる」とか言う人もいます。例えば白っぽい床の黒い斑点模様がアリに見えることもあるようです。亡くなる前には認知症や幻覚がひどくなるという英国のデータもあります。

―パーキンソン病であるとの診断は。

 20年ほど前は患者さんから症状を聞き取り、CTやMRI検査では異常がない、薬は効いた、これはパーキンソン病だという流れで診断していました。ですが、現在は診断・治療のガイドラインがあります。看護師さん、薬剤師さん、介護の方、患者さんらの意見も取り入れた優れたガイドラインです。
 また、心臓の交感神経の機能を見る心筋シンチ、脳内の神経経路の機能を見るドーパミントランスポーターシンチという画像検査もあります。どちらも久留米大学で検査できます。

未治療で放置は寝たきりになる危険も

「“年のせいだ”で片付けず、気になる症状があれば受診を」

どのような治療をするのか教えてください。

 通常、まず行われるのは薬物療法です。治療薬はたくさんあり、中心になるのは飲み薬のレボドパです。
 進行した人には手術が勧められます。脳深部刺激術といって、脳の視床下核に刺した細い電極の針に、胸部に埋め込んだ装置から電気刺激を送るシステムもあります。最近は開頭せずに外から超音波を当てて脳の一部を焼く方法もあります。腸ろう、つまり腸に穴を開けてチューブを入れ、ポンプ装置で液体状のレボドパ製剤を一定のスピードで流し込むやり方も出てきました。

―薬の副作用など治療の課題はありますか。

 レボドパは非常にいい薬なのですが、問題は効く時間が1時間半と短いことです。1時間半で薬の効き目が大きく落ち、治療開始から5、6年たつと薬が効かないとき、効き過ぎるときが出てきます。効いている間は動けますが、ウェアリングオフ現象といって効かない間は動けなくなったり気分が落ち込んだりします。効き過ぎるとジスキネジアといって、体が勝手にくねくね動くなどの症状が出ます。

―手術ではどうでしょう。

 脳深部刺激術では、電気刺激の強さの調整は非常に難しいようです。刺激が他に漏れると別の障害が起こります。電極を刺す視床下核はわずか数㍉しかない非常に小さな場所で、脳の一部を超音波で焼く方法も同じ場所を狙います。腸ろうによる治療法では体外に携帯するポンプ装置が重く、小柄な高齢の女性などは大変だそうです。

―それぞれに課題はあるようですが、治療を受けずに放置するとどうなりますか。

 少し前のデータですが、治療せずに発病から11~15年たつと、約85%の人が寝たきりか亡くなるかのどちらかでした。レボドパで治療した場合、その割合は40%程度に減少しています。現在は治療薬も増えていますから、もっと改善しているはずです。

―未解明な点が多い難病ですが、医学の進歩に期待したいと思います。

 今後も新しい治療法はどんどん出てくるでしょう。アルツハイマー病の治療薬レカネマブのように、パーキンソン病でも抗体薬が試されていると聞きます。腸ろうではなく皮下にレボドパ製剤を投与する治療法もできましたし、血液検査でαシヌクレインの蓄積などが分からないかという研究も行われています。
 お年寄りで体の動きがゆっくりとして、ちょこちょこ歩いたり震えたりしている人はパーキンソン病である可能性があります。「年のせいだ」で片付けず、気になる症状があれば、まずはかかりつけ医に相談してみてください。

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