【脳活健康大学】免疫力強化だけでは不十分 バランスの維持も大切

ウイルスや細菌など感染症の病原体と戦う体内の防衛システムが免疫です。しかし、このシステムのバランスが崩れると、免疫細胞は自分自身を攻撃し、さまざまな疾患やアレルギーを招きます。このため、久留米大医学部免疫学講座の溝口充志主任教授は「免疫力の強化」と共に「免疫バランスの維持」も非常に大切であると説きます。いかに免疫を強化しながらバランスを保つか。その鍵を握るのは腸です。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し抜粋・構成

話を伺ったのは?

久留米大医学部免疫学講座の主任教授
溝口充志氏

久留米大医学部免疫学講座の溝口充志主任教授

1989年に久留米大医学部を卒業。92年に米国・ハーバード大医学部マサチューセッツ総合病院へ留学。同大医学部で97年から助教、2003年から講師、11年から准教授を務めた。14年から現職。大学院医学研究科長を兼務。

目次

免疫が強過ぎるとさまざまな疾患に

コロナ禍の影響もあり、しばしば「免疫力を高める」という言葉が聞かれます。しかし、力を高めるだけでは不十分です。もう一つ大事なのは「免疫のバランスを保ちながら」という点です。
免疫には病原体(ウイルス、細菌、真菌など)という敵と戦い、体を守る役割があります。敵の強さ、敵の数、自分の免疫の強さ。この3要因によって、病気が重症化するか否かが決まります。
ならば強力な“スーパー免疫”を身に付ければ―と思われがちですが、強過ぎると自己免疫疾患やアレルギー疾患を起こします。免疫は弱ければ感染症にかかって重症化し、強過ぎるとさまざまな疾患を起こす。つまり、バランスが重要なのです。

免疫力について解説する 溝口充志主任教授

重症化防ぐT細胞 大きく分けて三つ

病原体と戦う免疫は一つではありません。最初に敵を攻撃するのは自然免疫です。さらに72時間たってB細胞とT細胞が出てきます。
B細胞は抗体を産生し、感染を予防します。しかし、23日で抗体の量が半分になり、約半年から1年でゼロになります。もう一つの欠点はウイルスが変異すると攻撃できなくなることです。一方でT細胞は重症化の予防に寄与します。こちらは持久力がある上に、ウイルスが少々変異しても敵だと認識して撃退します。


このT細胞は大きく分けて三つあり、その中のTh17とTh1が病原体を撃退します。問題は撃退した後です。敵がいなくなっても元気で、暴走すると次には自分自身の細胞を攻撃、破壊します。これによって関節リウマチや炎症性腸疾患といった自己免疫疾患を引き起こしてしまうのです。それを抑える働きをするのが三つ目のTh2ですが、こちらが強すぎた場合はアレルギー疾患を起こします。
両方の暴走を抑制する細胞も体内に存在しています。制御性T細胞(ティーレグ)です。この三つどもえのバランスが大切なのです。

免疫のバランスは腸で取っている

そうしたバランスを保ちながら強化するには、常に訓練が必要です。衛生状態が過度に良くなると訓練がおろそかになり、免疫力の低下だけでなくバランスも崩れやすくなります。自然や動物と触れ合い、ある程度は病原体に曝露(ばくろ)することが必要です。
免疫のバランスは体内のどこで取られているか。それは腸です。いつでも病原体と戦える活性化した免疫細胞の60%以上は腸管に存在しています。成人の腸管の長さは約7mもあり、大小のひだの二重構造になっています。その全てを広げた面積はバドミントンコート1面分。この大きなコートの下に免疫細胞がぎっしりとあります。
その免疫細胞と密接な関係にあるのが腸内細菌です。腸管には食べ物由来の細菌等が100兆個、3千から3万6千種類もいる可能性があります。それらが細菌叢(さいきんそう)を形成しています。
健康維持には整った腸内細菌叢が必要ですが、肥満や偏食、強い抗生物質などで崩れる可能性があります。要注意なのが胃潰瘍や逆流性食道炎で服用するプロトンポンプ阻害薬です。胃酸の分泌を抑えるため、長期に服用すると叢が大きく変化します。このような薬は整腸剤との併用をおすすめします。
もう一つ注意したいのが乳化剤です。腸管は膨大な数の腸内細菌に曝露しているにもかかわらず、1層の細胞にしか守られていません。乳化剤を取り過ぎると、その脆弱(ぜいじゃく)なバリアーが破壊される危険性があります。乳化剤とは食品用語で、科学用語でいえば石けんと同じ界面活性剤なのです。

免疫強化にデザート ただし運動が必要

免疫のバランスを維持した強化法

では、免疫強化のためには何を食べればいいのでしょう。実はデザートです。腸内細菌は、甘い物に含まれるグルコース(ブドウ糖)を、免疫細胞を動かす”バッテリー”となる物質に変換します。ご飯のでんぷんも同様です。
ただし、このバッテリーを免疫細胞の中に取り込むには食後の運動が必要です。また、食べ過ぎで肥満や糖尿病になると免疫は低下します。グルコースは免疫を強化しますが、運動を忘れると逆効果も生むのです。
また、病原体を撃退するTh17、Th1を増やすのは塩、卵、チーズなど乳製品です。これらも運動不足では生活習慣病の原因になります。
免疫バランスにとって重要なのは食物繊維です。バランス維持の働きをする制御性T細胞を増やすのが酪酸ですが、酪酸は食べてもすぐに分解されるため、おなかの中で作らないといけません。その原料となるのが食物繊維。腸内細菌が食物繊維を酪酸に変えるのです。

バランス維持には野菜をたくさん 

このほか、理化学研究所は日本人のための長寿食として1日4杯のご飯、魚、赤身肉などを挙げています。他の研究では免疫バランスを保つ食材としてワカメ、ごま、マカダミアナッツなどが報告されています。特にナッツ類に含まれるパルミトレイン酸が効果があるとされています。また、世界中で推奨されているのが地中海料理です。
もっとも、食は複雑なもので、時代とともに概念も変わっています。これさえ食べれば大丈夫といえるものはありません。食の面でも、全てはバランスなのです。
免疫のバランスを保ちながら強化する。その一番の方法は食物繊維を含む野菜を多く食べること。さらに訓練のために自然や動物に触れ、十分な睡眠を取り、社会活動に参加し、適度な運動をすることなのです。もちろん、病気で塩分や糖分の制限がある場合は、必ず医師の指示に従ってください。

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