【医学博士インタビュー】フレイルって何? ウィズコロナの暮らしでは社会参加意識して健康に

内閣府が2022年に発表した「高齢社会白書」では、2025年には日本の人口の3人に1人が65歳以上になり、独居もさらに増えると予測されています。西日本新聞の「脳活新聞」シリーズでは、そんな超高齢社会を見据え、できる限り自立して自分らしく日常生活を送る「健康寿命」を延ばすためのヒントとなる、さまざまな話題を取り上げています。そんな中、コロナ禍も重なり、懸念されているのが高齢者の閉じこもり。「運動時間や人と交流する機会の減少から、フレイルが拡大しています」と精神科医で医学博士の小路純央久留米大教授。小路教授をはじめ同大高次脳疾患研究所の皆さんに、フレイルとは何か、社会参加の重要性などについて話を聞ききました。

話を伺ったのは?

久留米大学 高次脳疾患研究所 教授 小路純央氏
同研究所の皆さ

脳活新聞企画の心強いパートナーでもある久留米大学 高次脳疾患研究所の皆さん
目次

コロナ禍でフレイル増加、長時間飲酒にも注意を

最近の自分自身を振り返ってみよう

―コロナ禍で高齢者に起きている、心配される事象について。

小路純央氏(以下小路) 高齢者は新型コロナウイルスに感染すると重症化のリスクがあることから、3密を避ける行動
を余儀なくされるケースが多かったと思います。そこで外出を自粛し、社会的な交流の機会が失われたことによって、身体機能や認知機能の低下に拍車がかかったといわれます。身体機能の低下は生活習慣病の悪化を引き起こし、それが認知症にもつながるという懸念があります。また、意欲の低下や抑うつを招く場合もあります。


佐藤守氏(以下佐藤) 施設や病院に入院中の人は、面会や行動にも制限がありました。隔離という環境の中では、せん妄といって寝ぼけたような状態になったり、記憶障害や見当識障害などを生じやすかったりすると報告されています。

筋力や心身の活力が低下し、介護一歩手前の虚弱な状態を「フレイル」という

小路 このように筋力や心身の活力が低下し、介護一歩手前の虚弱な状態を「フレイル」と言い、フレイルの進行には身体的要素のほかに精神面や社会的な側面も関わっています。コロナ禍において不活発な生活が続いたことで、特に高齢者にフイルが心配されています。

―不活発な生活で、ほかに懸念される点は。

児玉英也氏(以下児玉) 閉じこもった生活の中で飲酒の時間や量が増え、体調を崩したり、認知機能に影響が出たりする高齢者も。家にずっといると長時間の飲酒になりがちなので注意が必要です。

外出や人との交流を少しずつ増やそう

「社会参加や交流を意識して活動の範囲を広げていきましょう」と小路純央教授

―社会活動の重要性を呼びかける理由を聞かせてください。

小路 認知機能の維持を考えるとき、社会的な交流や趣味の活動などは、脳への刺激において大変重要な要素です。カラオケやサークル活動など、人と世間話をしながらわいわい楽しく過ごすのは、とても良い刺激になります。週2回程度、外出して社会的な接触があると、認知症発症を抑制する効果があるという研究発表もあります。

フレイルには身体面だけでなく精神面や社会的側面も関係している

―コロナ禍以前の習慣を思い起こし、少しずつ活動範囲を広げていく必要がありますね。

佐藤 活動という面では、自分が楽しめればどんな活動も認知機能低下を予防するという研究報告があります。例えば趣味のゲーム、編み物などの手芸もそうです。ウインドーショッピングだけでも刺激になるといわれています。
ただ、運動機能の低下を防ぐのも大切なので、体もしっかり動かしたい。誰かと一緒に景色を楽しみながら、花の名前を思い出すなど会話して散歩するのはいいですね。夫婦や友人で旅行するなど、行ったことがない場所に行くのも良い刺激になります。
歩行などの運動は、計算やしり取りなど、知的作業と組み合わせると一層効果があるとされます。

―ほかの人と一緒に行う利点とは。

児玉 人との会話は脳を活性化させるというのが一つ。さらに「見られている」など周囲の人を意識するのも脳の活性化の度合いが高くなると考えられます。

小路 「競う」というのも刺激のある要素です。ほかにはさまざまな特典を付けるなどで、やる気や意欲につなげるのも継続しやすくなるポイントでしょう。そういう面で脳活新聞がコラボしているウオーキングアプリ「ふくおか散歩」などは、自分の歩数が分かり、さまざまな特典があって楽しく続けられます。私も毎日、チェックしていますよ(笑)。

運動、栄養、社会参加で閉じこもらない生活を

久留米大高次脳疾患研究所 講師の佐藤守氏

―行楽の季節を前に、コロナと付き合いながら行動するポイントを

小路 人が多い場所や公共の交通機関内などはマスクを着用するなどしながら、活動の幅を広げていきたいですね。

佐藤 普段の体力、免疫力をアップさせるためにも、体温を上げる食事も重要なキーワードといえそうです。深部体温が1度下がると免疫力は30%低下、代謝は11〜12%低下するとされます。特に高齢者は体が冷え気味なので、体温を上げ
て認知機能にも良い食事を意識しましょう。

久留米大医学部神経精神医学講座 助教の児玉英也氏

―どんな食材やメニューがよいでしょうか。

佐藤 今の季節であれば、根菜が体を冷やしにくく、ビタミンも豊富で血行を促進します。ショウガやネギ、唐辛子をうまく使うのもいいですね。豚汁ほか鍋やスープだと調理も簡単です。

長く続けられる活動に携わり社会参加するのもおすすめ

―最後に、閉じこもらない生活へのアドバイスを。

児玉 同じ趣味を持つ友人を持つ、会合に出る、長く続けられるボランティアなど自分ができそうなことを見つけたいですね。

小路 まずは家の近所を歩いて季節の景色など魅力を見つけてみましょう。次は少し遠くまで散歩する、トレッキングに行くなど、達成感も意識しながら行動範囲を広げていくといいですね。興味・関心、やりがいを持てることをベースに、自分のペースで無理なく活動しましょう。

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この記事を書いた人

脳活、運動、食事、睡眠、社会参加、脳トレなどの普及・啓発活動による健康寿命の延伸・認知症予防の実現を目指す「脳活新聞」

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