食事中にむせたり、食べ物や飲料が飲み込みにくくなったりしていませんか。久留米大医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座主任教授の梅野博仁氏は「飲み込む力である嚥下(えんげ) 機能が低下すると食べ物などが気管に入ってしまい、それが原因で肺炎を引き起こす危険性があります」と話します。嚥下機能の大切さ、日常での注意点などについて聞きました。
話を伺ったのは?
久留米大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座
主任教授 梅野博仁氏
久留米大医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座主任教授、同大学病院副院長。久留米大医学部卒。93年公立八女総合病院耳鼻咽喉科医長、94年九州がんセンター頭頸科、95年聖マリア病院耳鼻咽喉科、2003年米国エール大耳鼻咽喉科客員助教授などを経て現職。
目次
加齢で落ちる「飲み込む力」
─昨今、嚥下という言葉をよく耳にします。
最近、大変注目を浴びている分野です。食べ物を口の中で噛(か)んで、飲み込みやすい大きさにして喉、食道、胃に送り込む一連の運動を摂食嚥下、うまく飲み込めずに気管に入ってしまうことを「誤嚥(ごえん)」といいます。
─特に高齢者の誤嚥、嚥下障害が話題に上ります。
高齢になると段々と筋力が落ち、靱帯(じんたい)も緩み、喉頭自体も下がってきます。また、咀嚼(そしゃく)の速度や飲み込むための反射神経の反応が遅くなる、肺機能が落ちる、喉に痰(たん)がからんでいるなどで、食べ物をうまく飲み込むのが難しくなります。唾液が出にくくなり口が渇いているのも原因の一つに挙げられます。
食べ物だけでなく、誤嚥を起こしやすいのは、液体です。水やお茶をごくりと飲めず、むせてしまうんですね。薬など錠剤が飲み込めない場合もあります。
─誤嚥の危険性とは。
まず、誤嚥すると大変苦しいですし、最悪は窒息する恐れもあります。また、食べ物が気管から肺に入って炎症を起こすと誤嚥性肺炎を引き起こす場合があります。
70歳以上の肺炎患者の約7割が誤嚥性肺炎とされ、症状が長期化したり肺炎を繰り返したりするケースも多く、死亡リスクも高いので注意が必要です。
無自覚の場合も?! 食事時間にチェックを
─誤嚥した場合、どうすればいいでしょうか。
咳せきなどをして、食べ物をしっかり吐き出すこと。それができるかどうかが重要になります。
飲み込む力の低下は自覚症状がない人もいるので、食事の際に気を付けて自己チェックしてみましょう。周囲の人に食事中の様子を観察してもらうのも良い手段です。
─誤嚥の対処法はありますか。
口に残っている異物を全て出し、顔を下に向け、前傾姿勢をとって、口を喉よりも下の位置に下げます。背中はゆっくりさすりましょう。強くたたき過ぎると、食べ物がさらに気管内に入り込む場合もあるので注意を。
─予防法などアドバイスを。
「嚥下体操」「嚥下おでこ体操」など、多くのトレーニング方法が提唱されています。頰、口の周り、舌、喉仏を持ち上げる筋肉などを鍛える体操です。最近はユーチューブなど動画でも紹介されています。
また、食べる時は姿勢を正す、食べ物はできるだけ同じ大きさにそろえる、液体にはとろみをつけるなどの工夫も必要ですね。
日本嚥下医学会認定の「嚥下相談医、嚥下相談歯科医、嚥下相談員制度」があります。難しい嚥下障害は相談医、相談歯科医、相談員に紹介してもらうのがよろしいかと思います。嚥下障害にはさまざまなパターンがあり、軽い症状もあれば脳血管障害や神経・筋疾患といった他の病気が関係している危険性もありますので、気になったら早めに、まずは耳鼻咽喉科を受診するのをおすすめします。
■各都道府県の嚥下相談医 嚥下相談医一覧|嚥下相談医等制度|日本嚥下医学会 (ssdj.jp)
─嚥下で耳鼻咽喉科を受診するという認識がありませんでした。
ご存じない人も多いようです。脳から下、肺から上は耳鼻咽喉科の領域で、飲み込む力には、喉(口腔・咽頭・喉頭)が重要な役割を果たしているからです。嚥下障害はスクリーニング検査や内視鏡などで検査をします。
いずれにせよ、食べることは長い人生の中で大切な喜びであり、楽しみ。できるだけ飲み込む力を保持し、栄養をしっかり取って、健康に過ごしたいですね。
やってみよう! 「嚥下体操」「おでこ体操」