自覚症状がないまま進行し、命に関わる大病を招く。そうした病気をサイレントキラー(静かなる殺し屋)と呼びます。その代表ともいえる動脈硬化と高血圧について、久留米大医学部内科学講座心臓・血管内科部門の主任教授で同大病院副院長の福本義弘氏が解説しました。〝殺し屋〞から身を守るためには、いずれもコントロールが必要不可欠といいます。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し抜粋・構成
話を伺ったのは?
久留米大医学部内科学講座心臓・血管内科部門の主任教授
同大病院副院長 福本 義弘氏
1965年生まれ。91年九州大医学部卒。九州大病院、北九州市立医療センター医師・副部長などを経て、98年米国ハーバード大ブリガム・ウイメンズ病院に留学。帰国後、九州大病院医員・講師、麻生飯塚病院医長、東北大病院助手、同大学院医学系研究科准教授などを務め、13年から久留米大で現職。同大の高度救命救急センター副センター長、循環器病研究所長、大学病院副院長を兼任
目次
改善や食い止めが可能「動脈硬化」
体内には動脈と静脈があります。 動脈は血液が心臓から外に出ていく血管で、各臓器や筋肉から心臓に戻ってくる血管が静脈です。血圧とは動脈の圧力のことで、 われわれは動脈の血管音を聞きながら圧力を測っています。
動脈硬化が招く病気はたくさんあります。 脳血管が詰まる脳梗塞、心臓の冠動脈の疾患による心筋梗塞や狭心症などのほか、 脚の壊死もあります。危険因子には年齢、高血圧、脂質異常症、糖尿病がありますが、加齢ばかりは仕方ありません。加齢に高血圧、 脂質異常症、糖尿病と因子が重なるほど硬化が進みやすくなります。喫煙、腎臓が悪い人、 善玉(HDL)コレステロールが少ない人も硬化が進みます。
では、何歳ごろから硬化が始まるか。血管の断面図「動脈硬化・進行のプロセス」で説明します。悪玉(LDL)コレステロールが多いと、動脈の壁の中に脂分がたまります。それが図の黄色い部分、プラークです。(1)は10歳ごろの血管で、 壁は厚くなく硬化はありません。 (2) 、 (3) は10~20歳代ぐらいで、もう硬化が始まっています。30、40歳代と血圧が高いのを放置すると、どんどん (4) 、 (5) へと進みます。
60歳代や70歳代で (1) の状態に戻ることはありません。それでも (5) や (6) から (4) くらいに戻ることはあります。そのために大事なのは、 薬を使ってでもコレステロールや血圧をコ ントロールすることです。コントロールすれば硬化をとどめられる、あるいは少し改善することが数多くの実験や臨床データで分かっています。
また、たまった脂分が血管の内側で破裂すると (5) のように血の塊ができます。 この血栓で血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしますが、これもコ ントロールしておけば確率はかなり減ります。「症状がないのに医師から血圧を下げろ、コレステロールを下げろと言われた」と思う人もいるでしょうが、 (5) や (6) になるのを (4) くらいにとどめたいという意図で、われわれは口を酸っぱくして言っているのです。
適切な量の食事と適度な運動、そして必要に応じて薬を飲むことが動脈硬化の治療の基本です。加齢によって血管が硬くなるのは仕方ありませんが、血圧やコレステロールによる硬化は予防できます。シニアだけでなく、若い人も気を付けてほしいと常に思っています。
塩分取り過ぎは禁物「高血圧」
日本高血圧学会のデータによると、日本は血圧が高い人が4300万人もいます。総人口1億2千万人の約3分の1は高血圧なのです。このうち、ちゃんと治療してコントロールができている人は1200万人(27%)です。治療はしているもののコ ントロールできていない人が1250万人(29%)います。
一方で高血圧だと分かっていて放置している人と、高血圧だと認識していない人が合わせて1850万人(44%)もいます。これがサイレ ントキラーの怖さです。そのまま放置すると脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、腎硬化症、心不全などを起こします。
例えば急性心筋梗塞の危険因子で最も悪いのは、やはり高血圧です。熊本大の研究で血圧が高い人と正常な人を比べ ると、高い人は急性心筋梗塞に5倍なりやすいと分かって います。喫煙は4倍超、糖尿病は3.5倍です。家族歴、高脂血症、肥満も危険因子ですが、それよりも高血圧と喫煙が大きな危険因子です。
それでは、どうして血圧が高くなるのか。動脈硬化と、もう一つの理由に塩分の取り過ぎがあります。人は塩分を取り過ぎて血中のナトリウム濃度が上がると具合が悪くなるため、水分を取って濃度を薄めようとします。水分を取ると体液量、血液量が増えます。心臓から出ていく血液量が増えることで圧力が高くなるわけです。塩分の取り過ぎが習慣になると、ずっと血液量の増加が続くので血圧が上がります。
また、塩分を取り過ぎると血管が縮まります。さらに腎臓の機能も低下します。血管、腎臓にダ メージを受けることでも血圧が上がります。そうでなくても、上の血圧は年齢とともに上がっていきます。そこに塩分を取り過ぎると、もっと上がることになります。
140/90以上なら高血圧
慢性的に血圧が高い状態が高血圧。医療機関での測定では、上の血圧が140mmHg(ミリ水銀)以上、または下の血圧が90mmHg以上だと高血圧と診断される。家庭で測った場合は135以上/85以上。上下のどちらか一方が高ければ高血圧。
「上の血圧」とは、心臓が血液を全身に送り出すときに動脈の壁を押す圧力で「収縮期血圧」という。「下の血圧」は、血液を送り出した後に心臓が広がったときの圧力で「拡張期血圧」。
コントロールのためには自身の血圧を知ることが大切です。加齢によって血管が硬くなることで下の血圧は下がってきますから、シニアは下の血圧をさほど気にする必要はありません。上の血圧が上がり過ぎないようにするのが大事です。もう一つ、血圧は一日の中で変化します。昼間は血圧、脈拍が上がり、夜間の睡眠中は下がるのが正常で、夜中でも血圧が高い人は治療が必要です。
また、入浴後や朝の起床時など、いろいろなタイミングで血圧を測るのが重要です。どこか一つのタイミングで低くても安心してはいけないし、高いからと心配する必要もありません。小まめに測って問題があれば、まずは主治医に相談してください。
動脈硬化と同じで、血圧もコントロールできます。塩分制限、適度な運動、それでも下がらない人は薬の服用。心臓や血管に負担を与えず、さまざまな病気を招かないように危険因子の数を減らしていきましょう。
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