加齢に伴いさまざまな力が落ちていく中で、大きく衰える身体機能の一つが脚の筋力。その低下を放置すると歩行が困難になり、ひいてはQOL(生活の質)も低下します。そこで、久留米大人間健康学部スポーツ医科学科の右田孝志教授が紹介するのが、歩行に不可欠な筋肉のシンプルな維持・強化法。同教授は「老化を嘆かず、あらがわず、それに対してできることを無理なくやるのが大事。日常生活の中に、ちょっとした動きを加えてほしい」と説きます。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し、抜粋・構成
話を伺ったのは?
久留米大人間健康学部スポーツ医科学科
右田孝志教授
熊本県出身。鹿児島大教育学部卒。順天堂大大学院体育学研究科修了後、同大陸上競技研究室助手に。同大陸上競技部・長距離ブロックのコーチも務めた。1997年に久留米大へ。在職中に九州工大生命体工学研究科博士課程で学術博士号を取得。専門は運動生理学。大学時代は陸上・長距離種目の選手。
目次
自立した活動には歩けるかが重要
エイジングという言葉には高齢期を指すイメージがありますが、正確には生まれた瞬間にスタートする現象です。一般に20歳頃までが成長期、発育発達期で、50歳代頃まで定常状態、その後は気力、体力、活力など、いろいろなものが落ちてきます。
高齢期でも自立的な活動水準を保つには歩行できることが非常に重要ですが、大きく落ちる運動能力の一つが脚の筋力です。その落ち方を少しでも緩やかにする方法の一つがトレーニング(以下、筋トレ)。筋力は筋肉が太くなることで上がります。
筋肉は細長い筋線維がたくさん集まってできていて、太くなる要因の一つはその数が増えること、もう一つは一本一本が大きくなることです。また、脳からの指令に応じて働く筋線維が増加するほど、大きな力を出せるようになります。
しかし、加齢によって筋線維は数が減り、萎縮します。ほかにも速く動けて大きな力を出せる速筋線維が減少したり、加齢に伴う活動量低下で、地球の重量下でバランスを保つ役目を果たす抗重力筋も減少したりします。「サルコペニア」とはこのような加齢に伴う筋量、筋力の低下で、それによって移動機能が低下する「ロコモティブシンドローム」を引き起こします。
座ったままで可能脚の筋肉の強化法
これらを防ぐために鍛えてほしい脚の筋肉が四つあります。立ち上がる時に重要な大腿四頭筋。歩く時に脚を持ち上げる腸腰筋。歩行時につま先を上げ、つまずきを防ぐ前脛骨筋。抗重力筋の一つ、下腿三頭筋です。
この四つを日常生活の中で無理なく、座ったままでも鍛えられる簡単な筋トレをイラストとともに紹介します。
大腿四頭筋
膝の曲げ伸ばしです。最初は左右8回ずつ。物足りなければ、椅子からの立ち上がりを繰り返します。起立も着席も上体を前傾せずに背筋を真っすぐに伸ばすことが重要です。
これを椅子なしで行うのがスクワットです。やはり上体は前傾させず、腰を落とす時に膝を前に出しすぎないようにするのもポイントです。そうすると膝などを痛めず、効果も上がります。深くかがむのが大変であれば浅くても大丈夫。肩幅より少し広めに足を開き、手は頭の後ろで組んでも腰に置いても構いません。
腸腰筋
背筋を伸ばして脚を膝上に持ち上げます。これも左右8回ずつ。高く上げるほど効果があります。余裕がある人は太ももに手を添えて力を加えましょう。立って行う場合も上体は真っすぐに。
前脛骨筋
つま先だけを上げます。両足一緒でも構いません。回数ではなく、上げた状態を10秒、15秒と保つなど、いろいろなやり方があります。立って行うと少し力が必要になります。
下腿三頭筋
かかとを上げ下げします。立っても行え、物足りなければ片方の脚を浮かせて、もう一方のかかとの上げ下げを5回ずつ。軽く上げるだけで十分です。立って行う際にバランスが不安な人は、必ず椅子などに手を添えてください。
いずれも回数や時間、おもりを用いて負荷を上げるなど、自分の感覚に合わせてアレンジしてください。簡単な筋トレですから、日常生活の中に取り入れることができます。
「健康な加齢」へ +10分の活動を
運動を難しく考える必要はありません。厚生労働省は、1日に10分の身体活動を増やす「+ 10(プラステン)」を推奨しています。散歩やラジオ体操、エスカレーターがあっても階段を使うとか、日常生活に「+ 10」すること。無理がないことが大切です。
加齢と戦う「アンチ・エイジング」ではなく、止められないものとして受け入れる「ウィズ・エイジング」。その中で健康な加齢「ヘルシー・エイジング」を目指して頑張っていきましょう。
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