【専門家インタビュー】片脚で立ち上がれる? 毎日の訓練でロコモを回避しよう

要介護や要支援になった原因の上位には「転倒・骨折」「関節の病気」があり、これらに関わるのがロコモティブシンドローム(運動器症候群)。「自立した生活を送るため、健康寿命を延ばすためには、運動器を健やかに保ち〝自分で歩ける〞ことが重要です」と久留米大医学部整形外科学講座の主任教授、平岡弘二氏は話します。ロコモティブシンドロームの原因や進行度チェック、予防などについて聞きました。

話を伺ったのは?

「 継続して体を動かす習慣をぜひ身に付けましょう」と平岡弘二教授

久留米大医学部整形外科学講座
主任教授、平岡弘二氏

1963年生まれ。88年久留米大医学部卒、93年同大大学院医学研究科修了。98年筑後市立病院整形外科科長、2002年久留米大医学部整形外科講師、03~04年米国スクリップス・リサーチ研究所へ留学、11年久留米大医学部整形外科准教授、22年同教授。がんロコモアドバイスドクター

目次

筋力、骨、関節などの能力低下に注意を

「ロコモであっても自覚がない場合も。一度チェックを」

―まず、ロコモティブシンドロームとは何でしょうか。

人間は生活の上で歩く、運動する、食べるなどを行っていて、これら体の動きをつかさどる筋肉、骨、関節、椎間板、神経などの器官を運動器と呼びます。この運動器の能力が加齢や機能障害のために低下し、立ったり歩いたりといった移動に支障がある状態をロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)と言い、日本整形外科学会が2007年に提唱した概念です。進行すると日常生活が不自由になり、要介護リスクが高まります。車椅子や寝たきりの生活になる心配もあります。

―ロコモに至る原因には何がありますか。

原因はさまざまで、骨粗しょう症、骨折、変形性膝関節症などが挙げられます。加齢によって筋肉量や筋力が低下したサルコペニア(加齢性筋肉減弱現象)もその一つです。
また、膝や腰といった関節に負担をかける肥満など、生活習慣病を併存している場合も多く、さらにロコモが生活習慣病を悪化させるという悪循環にもつながります。

―ロコモの患者数は増えているとか。

推計患者数は、予備軍を含めて4700万人とされます。年齢が上がると筋力やバランス能力が低下するので高齢者に多いのは確かですが、移動手段など世の中が便利になったことから高齢者に限らず、ロコモ度のチェックをすると結果が悪い人もいます。

―どのようなチェック内容で分かりますか

厚生労働省や日本整形外科学会のホームページに「ロコモ度テスト」が掲載されています。下肢筋力を調べる「立ち上がりテスト」と歩幅を調べる「2ステップテスト」、ほかにアンケート形式の「ロコモ25」です。この三つの結果からロコモ度を1〜3に分け、最も悪いのが3。日頃気が付いていなくても、片脚では立ち上がれないなどロコモ度1くらいの人は結構いるんですよ。

「ロコモ度テスト」にトライ!

ロコモ度テストを試してみましょう。 <参考:ロコモチャレンジ!推進協議会>

■立ち上がりテスト
1) 40㎝の台を用意
2) 両脚テストを行う→できない人はロコモ度2
3) 片脚テストを行う→どちらか一方の片脚で立ち上がれない人はロコモ度1

40㎝の台に両腕を組んで腰かけ、両脚は肩幅くらいに広げ、床に対してすねが約70度になるようにする。反動をつけずに立ち上がり3秒保持する。

40cmの台に両腕を組んで腰かけ、両脚は肩幅くらいに広げ、床に対してすねが約70度になるようにし、左右どちらかの脚を上げる。上げた方の脚の膝は軽く曲げる。反動をつけずに立ち上がり3秒保持する。

■2ステップテスト

1)スタートラインを決めて両足のつま先を合わせる
2)できる限り大股で2歩進み、両足をそろえる(バランスを崩したらやり直し)
3)2歩分の歩幅を測る
4)1~3を2回行い、良かったほうの記録を採用
5)下記の計算式で2ステップ値を算出する
  2歩幅(㎝)÷身長(㎝)=2ステップ値  
  →1.3未満はロコモ度1、1.1未満はロコモ度2

最大2歩幅(2ステップの長さ)

※準備運動をして、滑りにくい床でジャンプなどせずバランスを崩さない範囲で行う

▼さらに詳しくロコモ度を調べたい場合は
「ロコモチャレンジ! 推進協議会」https://locomo-joa.jp/check

バランス能力や筋力の訓練を取り入れよう

―ロコモ度テストの結果、1、2、3という評価段階によって対処は変わりますか。

1はまだ軽度ですが、3は要介護が目前に迫っています。ですから1、2の段階でしっかり運動訓練やバランス訓練をして改善を目指す必要があります。日本整形外科学会が提唱する「ロコモーショントレーニング(ロコトレ)」という簡単な訓練方法もあります。

―バランス能力を付ける「片脚立ち」、下肢筋力を付ける「スクワット」の〝たった2つの運動〞を、毎日続けようと記されています。

正しいやり方が細やかに書かれているので、ぜひ参考にしてください。そして「毎日」とあるように、継続しなければ効果も維持できません。皆さん分かっているものの、これがなかなか難しいのが現状。最初は真面目に取り組んでいても「最近できていなくて」「ちょっとしんどくて休んでいます」などはよく聞かれる言葉です。
しかし、運動の継続は健康寿命に関わる大きな課題。筋肉や動ける能力を維持しておかなくては、病気になった時、治療後などの社会生活への復帰にも大いに関係します。

ロコトレ(ロコモチャレンジ!推進協議会「ロコモONLINE」)
https://locomo-joa.jp/check/locotre

“運動も大事な治療の一つ”、がん治療とも伴走

―最近は「がんロコモ」という概念も提唱され、平岡教授は、がんロコモアドバイスドクターでもあります。

「がんロコモ」とは、ロコモの原因ががんの場合を指します。例えば、がんが骨に転移して痛みが強く動けない、抗がん剤治療によるしびれや倦怠(けんたい)感、手術や長期安静による筋力低下などで動けないなどです。
そしてこれまでは、がんの治療を優先して運動器疾患の診療が後回しになるケースが多かったのですが、これからは整形外科でロコモについても適切な診療をしていこうというものです。がんを治療しても歩く体力がなくなってしまっては、患者さんの生活の質に大いに関わるからです。また、近年は通院でのがん治療が増えていますので、通院できる体力や筋力を維持する必要性が一層高まっています。

―がんをはじめ、運動能力の維持は多くの病気と関係が深いのですね。

その通りです。ですから「運動も重要な治療の一つです」と強くアピールしたい。ロコモであると治療の選択肢を狭めるケースもあります。それぞれの病気の治療と伴走しながら、もしくは治療後に、適切なトレーニングの指導などを通して、患者さんの社会復帰や健康寿命の延伸に貢献するのが私たちの役目。他科との連携も一層、目指さなくてはならないでしょう。
皆さんも、よりよい人生のために、継続して体を動かす習慣をぜひ身に付けてください。


あわせて読みたい
【専門家インタビュー】発がんも! 脂肪肝は「黄信号」 久留米大医学部内科学講座 消化器内科部門の主任教授の川口巧氏に、脂肪肝について解説していただきました。今回の前編では脂肪肝の罹患(りかん)状況や怖さ、自身の“危険度”が分かる数値の算出方法などを取り上げました。
よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

脳活、運動、食事、睡眠、社会参加、脳トレなどの普及・啓発活動による健康寿命の延伸・認知症予防の実現を目指す「脳活新聞」

コメント

コメント一覧 (1件)

目次
閉じる