【専門家インタビュー】万病に関わる糖尿病、まずは自分の血糖値を知ろう

患者数が多く、日本での国民病ともいわれる糖尿病。2016年には「糖尿病が強く疑われる者」「糖尿病の可能性を否定できない者」は各1千万人(計2千万人)と推計され、そのうち半数が65歳以上の高齢者で占められています。「進行するとさまざまな障害を引き起こす危険がありながら、重症化するまで気付きにくいのが特徴」と話すのは久留米大医学部 内科学講座 内分泌代謝内科主任教授で久留米大病院長の野村政壽氏。注意したい点や予防についても聞きました。

話をうかがったのは?

「食べ過ぎず、空腹時間を作り、摂取したエネルギーはしっかり代謝しましょう」

久留米大医学部 内科学講座 内分泌代謝内科 主任教授
久留米大病院長  野村政壽氏

1962年生まれ、88年九州大医学部卒、95年九州大学医学部付属病院医員、96~99年米国ハーバード大医学部博士研究員、99年九州大大学院医学研究院病態制御内科助手・講師・准教授、2017年久留米大医学部内科学講座内分泌代謝内科主任教授、20年久留米大病院副院長、23年同病院長

目次

糖尿病は未治療の人が多い!? 認知症も高リスクに

糖尿病や糖尿病が疑われる人が多いのにもかかわらず、治療をしていない人が4割近くも

―生活習慣病の中でも高齢者は特に注意が必要という「糖尿病」。その特徴は?

糖尿病とは、体内の膵臓(すいぞう)から出るインスリンというホルモンが十分に機能せず、血液中のブドウ糖(血糖)が増えてしまう症状です。
通常、血糖値はインスリンとその逆の働きを持つホルモン、グルカゴン等のバランスで一定範囲内に保たれていますが、過食や運動不足、肥満、ストレスや生活習慣、加齢などで血糖値が上がってしまいます。これは近年の食生活の変化で糖質や脂肪、たんぱく質の摂取量が増えたという原因もありますし、アジア人種はインスリンを出す力が弱いという背景もあります。日本人は西洋人より高血糖になるリスクが高いんですよ。

―患者数など日本の傾向は。

現在、日本の成人の4人に1人が糖尿病の可能性があり、70歳を超えると2人に1人ともいわれます。また、発症人数が大変多いにもかかわらず、治療を受けずに放置している人が4割程度もいるのが現状です。「境界型糖尿病」といって糖尿病の前段階の人も多いです。

―糖尿病になると何が危険なのでしょうか。

糖尿病は「し・め・じ」と言われる三大合併症、つまり「し」神経障害、「め(目)」網膜症、「じ(腎臓)」糖尿病腎症を引き起こします。
ほかにも高血圧や高脂血症を誘発して血管の動脈硬化が進むなどで脳血管障害や狭心症、心筋梗塞のリスクが高まります。うつや不眠も関係します。

―認知機能との関係も深いと聞きます。

生活習慣病と認知機能の低下は関連深く、中でも65歳以上の糖尿病患者における認知機能低下は4割近くにも及び、糖代謝異常は認知症発症を促進することが分かっています。高齢になるほど糖尿病になりやすく、認知症につながりやすい。逆に言えば、糖尿病に気を付ければ認知症になるリスクも減ります。

空腹時間をつくることで、細胞の代謝を活発に

細胞内のミトコンドリアでエネルギーが代謝されています

―糖尿病のメカニズムとは。

ヒトは食物を食べて体内の細胞内で代謝することで活動エネルギーを生み出していますが、糖尿病になると食物エネルギーを正常に代謝できなくなります。ここで少し、細胞内の代謝について、大事な役割を担っているミトコンドリアの話をしましょう。

―細胞内のミトコンドリアですか?

ヒトの細胞内には数百、数千という小器官、ミトコンドリアが含まれていて、このミトコンドリアがエネルギー生成、脂肪酸の燃焼、自然免疫や細胞死(アポトーシス)、外敵であるウイルスの認識…と多くの仕事をしています。さらにオートファジー(自食作用)といって自らを分解して新たに生まれ変わってもいます。
つまり、細胞内に新しく元気なミトコンドリアがたくさんあるほどヒトは多くの活動エネルギーを得られ、健康で若々しくいられるわけです。
しかし、過食や満腹、飲み過ぎはミトコンドリアの質を低下させ、細胞内に活性酸素が増え、炎症を起こしやすくなることが分かっています。一方、空腹で飢餓状態の時や運動時には体内に蓄えられた脂肪を分解しようと肝臓内でケトン体が合成され、これによってミトコンドリアは活性化します。

―空腹時間が重要なのですね。具体的には何時間くらいがいいでしょうか。

およそ12時間と考えます。人間の生体リズムは12時間周期です。朝と日中は動いてしっかり食べて、夕食は控えめに。その後は食べずに12時間空ける。こうして寝ている間に軽い飢餓状態を作り、ミトコンドリアを活性化させ、細胞を修復するわけです。

“筋力を維持する”ための食事と運動を心がけよう

「筋力の維持を心がけて。食後30分くらいして運動すると効率的です」

―空腹時間を確保するほか、予防として何に気を付けたらよいですか。

高齢者は筋肉が落ちて脂肪が増えてしまいがちですが、身体活動を維持するためには筋肉が必要です。筋肉を維持するためにアミノ酸のもとになる肉や魚などのたんぱく質をしっかり摂取し、その上で運動することが欠かせません。

―運動するタイミングや強度の目安を。

たんぱく質を取り入れたメニューをしっかり食べて、その30分後くらいに運動をするのが効率的です。血中のアミノ酸濃度の上昇とインスリン分泌が合うタイミングだからです。歩行や自転車などの有酸素運動、スクワットや階段の昇降など筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動を取り入れることを推奨します。

―今回、糖尿病は万病に関わると改めて認識しました。

糖尿病をはじめ生活習慣病には、食事や運動が大きく関わり、生活習慣病を防げば認知症予防にもつながります。まずは食べ過ぎず、摂取したエネルギーは代謝するよう心がけましょう。
また、運動などができない方には有効な薬もあります。糖尿病の治療薬では心臓や腎臓の保護機能が認められ、認知症への効果も分かってきています。いずれにしても年に1度は検診で血糖値を把握し、自分の状態を知ることが大切です。

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この記事を書いた人

脳活、運動、食事、睡眠、社会参加、脳トレなどの普及・啓発活動による健康寿命の延伸・認知症予防の実現を目指す「脳活新聞」

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