日差しが強くなり、紫外線や汗、冷房などによる肌トラブルが気になる季節。「高齢になると皮膚のバリア機能が弱くなり、潤い成分が生成されにくくなるためトラブルが増えます」と久留米大学医学部皮膚科学講座の名嘉眞武國主任教授は話します。このほか気が付きにくい水虫、発症が増えているという帯状疱疹のほか、スキンケアなどについても聞きました。
話をうかがったのは?
久留米大学医学部皮膚科学講座
主任教授 名嘉眞 武國氏
1960年生まれ、87年久留米大医学部医学科卒、同学部皮膚科学講座入局。93年大牟田市立総合病院皮膚科部長、97年久留米大皮膚科学講座講師、2013年久留米大医療センター皮膚科教授、15年久留米大皮膚科学講座主任教授および診療部長、17久留米大学皮膚細胞生物学研究所所長兼務
目次
かゆみ、かさつき…大敵は「乾燥」
―高齢者によく見られる皮膚の状態、症状には何がありますか。
高齢になると乾燥が原因の「かゆみ」を訴える人が大変多く、秋口から冬にかけては特に増えます。その理由は主に三つで、(1)汗腺、皮脂腺の機能が低下して皮脂膜の形成が悪くなる(2)皮膚の表面や角質層の潤いを保つセラミドの合成が低下する(3)天然保湿因子(フィラグリン由来のアミノ酸)の生成が減る―です。
乾燥が進むと皮膚の表面がカサカサした状態になりバリア機能が失われ、かゆみを感じる末梢(まっしょう)神経が表面に出て刺激を受けます。思わずかいてしまうと、さらに傷がつくという悪循環を起こします。
これからの季節は冷房や除湿による乾燥、紫外線によるダメージに注意が必要ですね。
―予防や対応策は。
肌表面の乾燥を誘発させないこと。暖房、冷房を効かせ過ぎない、電気毛布の使用を控える、加湿器を使用するなど。衣類や寝具は肌に刺激の少ない素材を選びたいですね。
入浴習慣も大事で、長時間の高温浴、1日に何度も入る、過度の石けん使用に注意を。ナイロンタオルやブラシは控え、泡立てた石けんと手で優しく洗う程度で十分です。保湿目的の入浴剤はいいですね。
―保湿へのアドバイスを。
軟こうなどの保湿剤には肌から水分が逃げないように膜を張り、保持する効果があります。1週間保湿剤を塗るケアを続けるだけでも肌に潤いが戻り、かゆみは軽減されます。入浴後は肌から水分が逃げやすいので上がって1時間以内に保湿剤を塗りましょう。
ケアできている? 足の爪、水虫
―ツメのケアはどうでしょうか。
加齢が進むと「爪甲鉤彎(そうこうこうわん)症」といって、爪が厚くなり、わん曲する場合があります。足の爪が曲がると歩行にも影響が出て、転倒リスクが高くなります。高齢者は足先に手が届かない、見づらいなどケアがおろそかになりがち。皮膚科ではグラインダーで削るなど薄くする処置があります。
―水虫も気になります。
足の爪の水虫、爪白癬(はくせん)にかかると爪が変色する、厚くなる、もろくなるなどで、進行すると変形し、はがれる場合も。爪水虫がある人は、足の裏にもほぼ水虫があり、さらには体のほかの部位にもうつります。家族と住んでいたら家族にも感染する危険もあります。
現在、副作用が少なく安全に使える飲み薬がありますので、気になったらすぐに皮膚科へ。
―日常での予防策はありますか。
白癬菌は湿度を好むので、特にこれから夏場にかけては、足を清潔にして湿らせたままにしないこと。健常であれば菌がついても24時間以内に石けんで洗えばうつらないとされます。
免疫力が下がっているとき、糖尿病などほかに病気がある場合に感染しやすく、症状も速く進むので気を付けたいですね。
免疫力低下に注意。増えている帯状疱疹
―帯状疱疹にかかる人が増えていると聞きます。
発症率は50 代から高くなり、80歳までに3人に1人は発症するとされます。近年高齢者人口が増え、さらにコロナ禍での影響もあり、特に増えていると考えられます。
帯状疱疹はまず皮膚にぴりぴり、ズキズキと感じるような痛みがあり、その後体の片側に帯状、またはある領域にかたまって水ぶくれを伴う湿疹が現れます。体の左右どちらにも症状が出る、全身的に広がるケースも。発症には水ぼうそうと同じウイルス「水痘・帯状疱疹ウイルス」が関係しています。
―気を付けたい点は。
免疫力低下が関係しているので栄養と睡眠を十分に取り、ストレスをためないこと。悪性腫瘍の治療中や糖尿病など、別の病気がある場合は発症しやすいので注意を。
現在、帯状疱疹には大変よい薬があり、初期ほど効果が高く、発症して3日以内に治療すると後遺症が残りにくいので、早く診察を受けてほしいですね。
―後遺症とは?
2種類あり、一つは発疹が治まった後の神経痛。もう一つは運動まひです。顔に症状が出ると顔面まひで食事がきちんとできなかったり、眼球の運動障害が出たり。陰部を中心とした下腹部だと、ぼうこう直腸障害で尿が出にくくなる、便秘や下痢になるなど。いずれもほぼ治るのですが、ある程度時間がかかります。神経痛は人によっては何年も続く場合もあります。
―帯状疱疹のワクチンについてはどうでしょう。
50歳以上が接種できるサブユニットワクチンを推奨しています。米国で2017年に認可され大変需要があり、日本では22年に認可されました。2回打つ必要があり、保険適用外なので高額、痛みが強いですが、有効性が高く1度の接種で5年間は持つとされます。生ワクチンではなく不活化ワクチンなので、ほかの病気の薬と併用しやすいのも利点。帯状疱疹を繰り返す、体力の低下が心配など、希望される場合は医師に相談してください。
―読者へのメッセージを。
皮膚は感染症、アレルギー、腫瘍、自己免疫疾患などあらゆる症状が現れる、頭からつま先までが範囲の最大の臓器です。だからこそトラブルが多く、つらい思いをしている人も。日々のケアや治療など気になることは気軽に専門医に相談して、少しでも健やかな日常を送ってください。