【大学教授インタビュー】老後はどこで暮らす? 早い時期から「人生の計画」を

高齢化の進展に伴い「老老介護」や「認認介護」、さらには独居する高齢者が増えています。こうした状況の中で安心して余生を送るため、ニーズが高まっているのが各種老人ホームなどの高齢者施設です。久留米大文学部社会福祉学科の片岡靖子教授は施設への入居も重要な選択肢の一つとして、高齢者のみならず、続く世代にも早い時期からの「ライフプランニング」が必要だと語ります。

話を伺ったのは?

久留米大文学部社会福祉学科の片岡靖子教授

久留米大文学部社会福祉学科 教授
片岡靖子氏

大阪府出身。立命館大応用社会学後期博士課程単位取得満期退学。九州保健福祉大講師を経て2010年に久留米大文学部社会福祉学科准教授に就任。19年から現職。社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員。福岡県介護支援専門員研修向上委員会の委員長、久留米市障害者地域生活支援協議会の会長、日本医療ソーシャルワーカー協会理事などを務める

目次

増加している単身・夫婦世帯 施設入居も重要な選択肢
特養、有料ホームの増加、広がる選択の幅

「早い時期からのライフプランニングが必要」と語る片岡靖子教授

―国が発表したデータによると、高齢者の入居施設は増加しています。

特に特別養護老人ホームと有料老人ホームが増えています。一方、介護老人保健施設は減少しています。この施設は病院を退院後に自宅に戻るためや、その他の施設に入るまでの待機施設的な役割がありますが、ここで待機せず、施設数の増加で選択の幅が広がった有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に直接入る構図になってきています。


―施設や入居者の増加の背景は、やはり社会の超高齢化ですか。

そうです。核家族化によって単身や配偶者と2人で暮らす高齢者が増えていることもあり特養、有料ホームの増加広がる選択の幅ます。また、国土交通省のデータでは65歳以上の9割以上は在宅で施設入居者は1割以下ですが、その1割の人口が増えていますから。65歳以上の人口は2040年あたりが最高潮となるでしょう

核家族化によって単身や配偶者と2人で暮らす高齢者が増加


―どのようなタイミングで施設に入居しますか。

要介護度が低いときは在宅希望が多く、要介護度が上がると入居を希望する人が増えます。やはり家族に迷惑をかけたくないというのが理由です。
歩けない、排せつのコントロールができないという自分自身の状態に加え、家族の状況も判断材料です。子どもが働き盛りのときに要介護になると施設に入りたい。また、子どもが定年後であっても元気でなければ介護は頼めません。そうした相互関係がポイントになります。

―入居のメリットはどのような点にありますか。

まずプロの介護者によるケアへの安心感があるでしょう。親は心配をかけまいと家族の前では頑張ってしまうので、家族では変化に気付きにくい面があります。プロはそこに気付いてくれます。また、家族は身内に厳しくなりがちです。元気なときとのギャップを心情的に埋められないのです。でも、プロは厳しいことは言わず、褒めます。
他者との交流も大きなメリットです。国内外の研究で、孤独や孤立は寿命を縮めることが分かっています。孤独だと早期死亡の確率が26%も高まり、心臓病や認知症にもなりやすいのです。スタッフや他の入居者もいる施設で孤独になることはありません。

介護離職は社会の損失「住み替え」の発想も

―介護は家族の生活にも影響します。

家族の介護を理由に仕事を辞める「介護離職」が増えていますが、その損失は非常に大きいです。介護のためにキャリアを捨て、収入は減り…と負のスパイラルを生みます。介護を社会に任せて仕事を継続する選択肢は必要です。


―経済面も決断の大きなポイントです。

もちろん、費用は重要な判断材料です。経済的な事情から自宅で暮らすという人もいるでしょう。ただ、持ち家があってもリフォームや修繕が必要な場合もあります。それが高額だとすれば、施設入居を「住み替え」と捉える発想はあっていいと思います。


―施設側に視点を移すと、増加や多様化の一方で倒産件数も増えるなど課題も出ています。

介護事業には普通の会社経営とは違うマネジメントやノウハウが必要な難しさがあります。コロナ禍も大きく響きましたし、物価高も経営を圧迫します。
さらに人材の確保が重要な課題です。厚生労働省は介護職員の必要数の推計を、2023年度で約233万人、25年度には約243万人、40年度には約280万人としています。今後の十数年で約50万人も増やさなければいけません。働き方改革に則した人材の確保と配置、デジタル化による業務の効率化や介護ロボットの開発も必要になってきます。


―賃金の低さも人材確保を難しくしています。

現場で働く教え子たちに話を聞くと、仕事のやりがいを給与面に求めているわけではありません。もっと高齢者に寄り添いたい思いで仕事をし、忙しくて十分に要望を聞けないと嘆いています。それでも、彼らの給与と社会的評価を上げてほしいと思います。
対策として、国は今年2月から月6千円の賃上げを実施しました。また、厚生労働省は人材を質量ともに確保するため、資質の向上、労働環境・処遇の改善などを進めています。質に関しては、全施設に虐待防止措置を義務付けています。

一層求められる施設と地域の連携

一人暮らしの高齢者の介護場所の希望

施設は今後、どのように〝進化〞をするのが望ましいでしょう。

地域包括ケアシステムの中で、地域に開かれた有料老人ホームができればと思います。例えばホーム内に多目的ホールがあり、子どもたちが遊びに来たり、地域の人が会議したり、皆で行事をしたり。なおかつ、入居者も自身の状況に合わせて施設を出て自宅に戻ったり、また別の施設に入ったりとできれば、在宅と変わりありません。
現在の高齢化対策の流れは地域共生です。欧米でも高齢者が住み慣れた地域で安全かつ自立して暮らせるように取り組んでいます。地域で最後まで安心して暮らすための選択肢の中に、有料老人ホームや特別養護老人ホームがあってもいいのではないかと思います。


―現状は入居する本人にも、預ける家族にも、ネガティブなイメージを持つ人がいますが。

最終的には入居者本人がどう受け止めるかです。やはり自宅で最期を迎えたいのが本音でしょう。でも、そこまでの生活が容易ではないことも理解されています。一方で看取りまでは対応しない施設もあります。
万が一のときに備えて自身の今後の医療やケアを考える「アドバンス・ケア・プランニング」の一つとして、死に関することまでしっかりと考えるのが大切です。経済的な面も含め、自分のライフプランをどう立てるか。そして早めに家族できちんと話し合ってほしいです。認知症で判断が困難になってからでは話し合えません。

―高齢者のみならず、その下の世代にとっても備えは必要です。

これからの世代は、健康マネジメントもライフマネジメントも自分ですることが必要になると思います。既に英国では自己管理、自己決定が大事だとする「セルフケア」の概念の下、どのサービスを利用するかを決めるのは本人であるとしています。
ライフプランとして施設介護離職は社会の損失「住み替え」の発想も入居を考えるならば、時期は大きく二つあると思います。一つは早めに有料老人ホームなどに入り、食事のケアや心身のチェックを受けながら健康に過ごす方法。もう一つは介護が必要になってから施設を選ぶ方法です。それを自ら選ぶように時代は変わっていくのではないでしょうか。

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