もはやストレスから逃れるのは困難な現代社会。知らず知らずに抱え込み過ぎて、心の病のみならず、身体面や行動面にもさまざまな問題症状が起きることがあります。この目に見えない厄介ものにどう向き合い、そしてどう解消するか。久留米大医学部神経精神医学講座の大江美佐里准教授が解説しました。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し抜粋・構成
話を伺ったのは?
久留米大医学部神経精神医学講座の准教授
大江美佐里氏
精神科専門医。1995年に筑波大医学専門学群を卒業。2009年から11年までスイス・チューリヒ大病院に留学。13年9月、久留米大病院カウンセリングセンター長就任。専門領域は心的外傷後ストレス障害をはじめとするトラウマティック・ストレス関連疾患。国際トラウマティック・ストレス学会理事、ふくしま心のケアセンター顧問も務める
目次
三つのストレッサー
人にはどんなストレスの原因「ストレッサー」があるのでしょう。
一つ目が「生活環境ストレッサー」。人生に起こりうる離婚、死別、失業、借金などです。二つ目は「外傷性ストレッサー」で、災害などで心理的に影響を受けること。三つ目は「日常生活ストレッサー」で、職場の人間関係や家族の問題など日常生活で繰り返し起こる、ささいなイライラなどです。これは災害などに比べると規模は小さいですが、積もれば大きなものになります。
「平成30年度世論調査」(内閣府)での国民の悩み事は1.老後の生活設計2.自分の健康 3. 家族の健康 4. 今後の資産や収入の見通し―と将来に対するものが多く、家族・親族間や勤務先の人間関係は、さほど多くはありませんでした。しかし、それらが大したストレッサーではないとは言えないのです。
向き合う
体が重く気分がすぐれないけれど、理由がはっきりしない。そうしたとき、自分に悩みがあるか考えてください。その悩みがストレッサーですが、これに気付かないときがあります。
ストレッサーを見つけたら、次はその大きさを考えます。どの程度のストレスを受け、解決策はあるか。時間を取り、ゆっくりと考えるのが大事です。改めて考えると解決策が見つかることもあります。
解決策が見つからない大きなストレスで心身が崩れそうなときは、他の人に相談しましょう。他の人は距離を置いて状況を見ることができ、冷静に判断できます。
どうしてもダメなときはストレッサーと距離を取ってください。向き合わずに「逃げるが勝ち」の場合もあります。
解消する
厚生労働省が勧める軽いストレスの解消法を紹介します。ここで大事なのは、自分に合わない方法はやらないことです。例えば音楽のように、好みに合わないものを無理に取り入れても長続きしません。
1. ストレスをマネジメントする
ストレスがかかっていると身体、心理、行動にさまざまな症状が出てきます。いつもと違う自分に気付き、ストレス反応を解消するための具体的な行動を起こしましょう。
2. リラクセーション
呼吸法やヨガなどがリラックスする方法ですが、自分の好みに合わせてください。
3. ストレッチ
体のストレッチは心にも効果があります。年齢や体の状態も考えながら、無理せずできることをやりましょう。
4. 適度な運動
軽い運動が気持ちをすっきりさせると証明されています。これも無理を感じない程度がいいです。
生活の中に有意義な活動を取り入れる「行動活性化技法」もあります。悩み事があって寝込む→鬱々(うつうつ)と考える→悩みが増す→寝込む。こうした悪循環に陥らないよう、気分にとらわれず、まず活動から始めることが効き目があるといわれています。
もちろん、十分な休養が必要な場合もあります。医師の指示で休んでいる人を無理に活動させてはいけません。
5. 快適な睡眠
ぐっすりと眠れたという感覚のある睡眠は、メンタルヘルスにも効果があります。30分以内の昼寝も効果的です。
6. 親しい人たちとの交流
心の内をおしゃべりできる人がいるといいです。地域の人とのつながりも重要です。
ただし、濃すぎる関係性の人への相談には問題もあります。関係が濃い人は一緒になって困ってしまうケースがあるからです。相談するなら、弱いが確実なつながりがある人が望ましい。例えば頻繁に連絡しないけれど、連絡するとよく話を聞いてくれる人です。いざというとき、関係は濃くはないけれど心のつながりを感じられる人に相談することが大事です。
7. 笑う
思い切り笑うと免疫力が高まります。福島第1原発の事故で避難した人々のメンタルヘルスについて調査・解析を手伝いましたが、他者と笑い合う機会を持っている人はメンタルヘルスが非常に良好という、はっきりとした結果が出ました。笑い合える関係性を持って生活するのは、たいへん素晴らしいことです。
8. 仕事から離れた趣味を持つ
趣味を介した人々との交流は効果的です。仕事と密接な趣味でも楽しければいいのですが、あまり密接していると趣味とは言えないかもしれません。
9. 解消への誤解
もちろん喫煙はお勧めできません。飲酒も量と頻度のコントロールが必要です。運動や趣味も翌日の生活に影響するようでは良くないです。
10. 相談することの有用性
行政に相談の窓口がありますし、設けている会社もあります。地域の医療機関などにも相談できます。
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久留米大は2020年11月に、コロナ禍の一般市民への影響を調査しました。対象は全国の男女1000人で、平均年齢は53.4歳でした。その結果、コロナ禍に動じず淡々と日頃の生活を続ける人は精神的に健康だと分かりました。
また、正しい生活習慣は病気や認知症の予防はもちろん、メンタルヘルスにも有効です。運動し、リラックスする機会を持ち、良質な睡眠を取り、いろいろな体に良いものを食べ、笑い合って暮らす。それが〝万能薬〞なのです。
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