健康寿命を延ばし、 自立した生活を続けるために「見えづらい」といいのは、避けたい症状の一つ。 久留米大医学部眼科学講座の吉田茂生教授は「高齢者が注意したい眼(め)の病気に白内障、加齢黄斑変性、緑内障があります。また視覚障害があると認知症を進行させるリスクが高まります」と話します。予防のポイントや日常での注意点などを聞きました。
話を伺ったのは?
久留米大学 医学部眼科学講座
主任教授 吉田茂生氏
久留米大医学部眼科学講座 主任教授。1993年九州大医学部卒。95年同大医学系研究科博士課程修了、99年米・ミシガン大学客員研究員、2002年九州大大学院医学研究院眼科学助手、07年福岡大筑紫病院眼科講師、10年九州大大学院医学研究院眼科学講師、15年同准教授、18年現職
目次
緑内障の初期は、自覚症状ない人も
―年齢を重ねることで気を付けたい眼の病気とは。
まず、高齢者に非常に多いのが白内障。カメラに例えるとレンズに当たる部分の水晶体が濁り、視力が低下します。
次に加齢黄斑変性。黄斑(部)とは、カメラのフィルムに相当する網膜の中心にある直径1 .5〜2 ㎜程度の箇所で、〝目の中の目〞といわれ大変緻密な構造をしている大事な部分。この黄斑に障害が出るわけです。
そして緑内障。視神経が傷んで、視野が狭くなるのが特徴です。加齢黄斑変性も緑内障も近年、とても増えています。若くて緑内障になるケースもありますが、やはり加齢に伴い発症率が高まります。神経細胞が死んでしまうと回復できないので予防が大事です。
―どんな症状に気を付けるべきでしょうか。
視力が急に低下したら注意が必要です。物がかすむ、ゆがむ、立体感なく見えるといった場合もあります。両眼が同じように見えにくくなるのは、多くは白内障。片方の眼に病状が出やすいのが加齢黄斑変性です。片方が悪くなっていても、もう一方で見てしまうので、発見が遅れるケースが多い。緑内障で視野が部分的に欠けていても、両眼で見るとカバーできるので「全く異常を感じていなかった。見えていますよ」という人もいます。
―気付かないうちに進行するのは怖いですね。
ですから私は、「ぜひ家庭でウインクしてみましょう」と提案しています。日頃からご夫婦で互いにウインクして眼の見え方をチェックしつつ、家庭も円満にと(笑)。
早期に適切な治療をすれば進行を抑えられるので、50歳を過ぎたら必ず定期的に眼の検診を受けていただきたいですね。
眼から得る情報と刺激は多く、認知機能にも影響
―視力と認知機能の関係性とは。
「外界から受ける情報の8割は眼から得られる」とされ、見るという行為は常に脳を刺激しているとも言えます。白内障では両眼とも濁って光の受像が妨げられるので、脳に送られる情報が減り刺激も低下し、認知機能が落ちると考えられています。逆に白内障を治療して視力が回復すると認知機能が上がる場合もあります。
いったん認知症になってしまうと回復が難しいので、視力が下がらないようにして脳を刺激する必要があります。
―ほかの病気との関連はどうでしょうか。
糖尿病は糖尿病網膜症を引き起こし、眼底出血や黄斑浮腫などにより視力が大きく下がる危険性があります。適切な眼科的および内科的な治療を施すことが極めて重要です。また、高血圧や動脈硬化など、全身病の症状は眼底検査によって網膜を見ると分かるケースがあります。
見えづらくなると外出したり歩いたりするのが怖くなり、それが筋力の低下を招き、転倒のリスクも高まります。転倒・骨折は要介護の原因に大きく関連します。
長時間見続けるのはNG、しっかり眼を休めて
―日常でどんな点に気を付けるべきでしょうか。
やはり、規則正しい生活を送ること。そして栄養バランスのよい食事が大事です。眼に良いとされるビタミンCを含む野菜や果物、DHA(ドコサヘキサエン酸)を多く含む魚類、ルテインを含むホウレン草やアボカド、ブロッコリーを意識して食べたいですね。
一方、喫煙、大量の飲酒はよくありません。
―コロナ禍もあって、動画などを長時間見る習慣ができた人もいます。
テレビやパソコン、スマートフォンの画面から出るブルーライトは網膜にダメージを与えます。長時間見るのは控えましょう。また、画面をずっと見続けると眼の調節力(ピント合わせ)が落ちるVDT(ビジュアル・ディスプレー・ターミナル)症候群になる危険も。焦点が合わせづらくなったり、メンタルにも影響が出たりするので注意が必要です。近くばかりを見て眼の筋肉が緊張して調節けいれんを起こすこともあります。50分見たら眼を10分休めるなどに留意を。
屋外での強い紫外線、非常にまぶしい光も目によくありません。サングラスをかけるなどして紫外線をカットしましょう。
―遠くを見るのは有効ですか。
遠くに焦点を合わせることで、眼の調節の筋肉をリラックスさせられます。眼を休め、時々遠くを見るのはいいと思いますよ。
―眼鏡や老眼鏡の適切な使用法を。
レンズが合っておらず、作業などをしていて眼の奥が痛くなる場合があります。焦点が合わない状態で無理に見ようとすると眼に負担がかかるからです。
高齢になると老眼の症状が出るので、遠近両用眼鏡で、作業する手元にピントが合っているか、中間距離、遠くにピントが合っているかをチェックして調整しましょう。そして、脳にしっかり情報を送り、認知機能が衰えないようにしたいですね。
眼鏡をかけてもよく見えない場合や「何かおかしい」と感じたら、眼科に受診を。