『ご先祖様はどちら様』で小林秀雄賞を受賞、『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』(二宮和也、有村架純主演でTVドラマ化)、『はい、泳げません』(綾瀬はるか、長谷川博巳主演で映画化)など映像化作品もある実力派ノンフィクション作家 髙橋秀実 による、新感覚の介護本が新潮社より2023年1月25日に刊行されます。
目次
認知症の父を介護する日々は「想定外」だらけ!
脱力系ノンフィクション作家が描く認知症介護のあれやこれやの日常。ユーモアいっぱいに、また一方で幻覚、徘徊、脱糞など、シビアな現実もしっかりと描かれているようです。
「ボケてもやっぱり父は父だった!突然怒り、取り繕い、身近なことを忘れる。変わっていく認知症の父に、60男の著者は戸惑うが、周囲の人の助けも借りて、なんとか新しい環境に向き合っていく。時に父と笑い合いながら、亡くなるまでの日々を過ごす。
『健忘があるから、幸福も希望もあるのだ』という哲学者ニーチェの至言に背中を押されながら。まるで哲学者のように話す父は、ボケているのか、とぼけているのか?」
などのように、
いま介護を体験している人、また将来に介護をするであろう人、また介護をされるであろう人、多くの人に共感や気づき、感動、勇気を与えてくれるような1冊です。
このようなやり取りが毎日
【引き算と綱引き?】
「100引く7?」
父は驚いたような表情を浮かべた。
――そう、100引く7。
「100引く7って、こう、引くのか?」
綱引きのような仕草をして父はたずねた。
【野菜で大事なことは?】
――野菜の名前をできるだけ多く言って。
「ほうれん草」
――他には?
「他は菜っ葉」
――菜っ葉にもいろいろあるでしょ。
「いいか。野菜で大事なのは名前じゃない。誰の野菜かってことだよ」
【することないの。】
――昨日は何をしていたの?
「なんにもしてない」
――おとといは?
「なんにも」
――明日は?
「なんにもしてない。することないもん」
【コップをめぐる禅問答?】
――これわかる? これは何?
コップを手にして訊いた。
「何って何?」
――いや、訊いているんだよ。
「何を?」
――だから、これは何?
「何って?」
――何って、何?
「何よ」
――だから、これは、何ですか?
「ほんとだ」
自分でも何を訊いているのかわからなくなった。
(本文より抜粋)
著者紹介:髙橋秀実(たかはし・ひでみね)
1961 年横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒業。『ご先祖様はどちら様』で第 10 回小林秀雄賞、『「弱くても勝 てます」開成高校野球部のセオリー』で第 23 回ミズノスポーツライター優秀賞受賞。昨年、『はい、泳げません』が綾瀬はるか/長谷川博己・主演で映画化。近著に『道徳教室 いい人じゃなきゃ ダメですか』。
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