先天異常、外傷や手術での切除などによって生じる機能障害や外見の変形の修復を担うのが形成外科。加齢によって上まぶたが下がり、視界を狭めてしまう眼瞼(がんけん)下垂症の手術にも携わっています。「視覚の質の改善は、認知能力も改善し生活の質の向上につながります」と語るのは、久留米大医学部形成外科・顎(がく)顔面外科学講座の主任教授・力丸英明氏。視覚機能の回復と、術後の見た目も考慮する「整容性」を両立させることで、さらに生活の質が上がります。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し、抜粋・構成
話を伺ったのは?
久留米大医学部形成外科・顎顔面外科学講座
主任教授・力丸英明氏
久留米大医学部形成外科・顎顔面外科学講座の主任教授・力丸英明氏
福岡県出身。医学博士。1993年産業医科大医学部医学科を卒業し、久留米大医学部形成外科学講座に入局。久留米大病院、国立病院九州医療センター、済生会福岡総合病院医長などを経て、2025年から現職。専門は頭蓋顎顔面外科、頭頚(とうけい)部再建外科、口唇口蓋(こうがい)裂、小耳症、美容外科、再生医療。日本形成外科学会専門医、同評議員、日本頭蓋顎顔面外科学会専門医、同理事、日本美容外科学会専門医、同理事などを務める。
目次
視界狭める上まぶた 加齢も主な原因に
加齢によって上まぶたが下がり、視界を狭めてしまう眼瞼下垂症について説明する力丸氏
人の顔は加齢に伴い変化します。シニアになると顔面骨の萎縮・吸収によって目が落ちくぼんだり、小鼻が少し広がったり、あごが平らになったりします。また、脂肪のたるみによって、ほうれい線や口の横から下に延びるマリオネットラインがだんだん深くなります。顔全体も下の方が少し大きくなり、若かった頃の逆三角形の顔が、四角い顔に変わっていきます。さらに、長い間日光の紫外線を受けた影響で肌の弾力が失われ、細かいしわが刻まれていきます。
加齢による顔の変化
目も年を取ってくるとだんだん開きにくくなってきます。最近多いのが、上まぶたが下がってきたり、目を開ける筋肉が緩んで目が開きにくくなったりする眼瞼下垂症です。われわれは、ほとんど毎日のように眼瞼下垂の手術をしています。
まぶたの断面図
目を閉じる筋肉は眼輪筋だけですが、目を開ける筋肉には、まぶたの上眼瞼挙筋とミュラー筋、そして額の前頭筋があります。これらがぎゅっと縮むことで目が開くのです。まぶたの筋肉が緩んできてうまく働かないと、額の前頭筋で眉を上げて目を開けようとするため、額のしわが深くなります。
眼瞼下垂には「先天性」と「後天性」の2種類があります。先天性の場合は生まれつきまぶたの筋肉がうまく動かないため、太ももの横から筋膜を取ってきて、瞼板(けんばん)と前頭筋をつなぐ手術を行います。また、一重まぶたを二重にすることで目の開きを良くすることもあります。
衰えた筋肉を補完 たるむ皮膚の切除も
熱心に聞き入る参加者
シニアの多くは後天性です。主な原因は加齢とハードコンタクトレンズの長期使用です。まぶたを上げる上眼瞼挙筋と瞼板の間には、双方をつなぐ腱膜(けんまく)があります。これが加齢や、ハードコンタクトレンズで長期的にまぶたをこすることで、滑ったり緩くなったりするのです。これを「腱膜性眼瞼下垂」と呼びます。手術では、まぶたを切開して目を開けるために非常に大事な筋肉をしっかり見つけ出し、これを瞼板に縫い付けます。
腱膜性のほかに、加齢によって上まぶたの皮膚がたるんで目にかぶってくる、「弛緩(しかん)性」もあります。この場合は余剰な皮膚を切除して縫合する手術を行います。主に眉下の皮膚を取り、目の周りの薄い皮膚を温存します。眉下の切除による傷痕はあまり目立ちません。
視覚良化で脳が覚醒 頭痛や肩凝り解消も
「眼瞼下垂を改善すると、頭痛や肩凝りが軽減する人もいます」
こうした手術によって、今まで視野が暗くて狭かったのが、よく見えるようになります。QOV(視覚の質)の改善です。QOVが改善すると、QOL(生活の質)も向上します。
まず脳が覚醒してはっきりしてきます。また、頭痛や肩凝りが軽減する人も結構います。額の前頭筋は、頭の後ろの後頭筋や、後頭部から肩や背中に広がる僧帽筋とつながっています。目を開けるために前頭筋を多く使うと、後頭筋や僧帽筋にも負荷がかかるのです。また、目が開きにくいと頭を後ろに反らせて視界を得ようとします。その姿勢も頭痛や肩凝りの原因となります。
さらに、目が変わっただけでもその人の持つ雰囲気が変わります。見た目が変わって、気持ちが若返ったり積極的になったりすることもあります。
さて、この手術の難しいところは、左右の目が同じように開かないといけないところです。目の形、ラインもきれいに、バランスを取る必要もあります。
眼瞼下垂の余剰皮膚切除部位
例えば、特に女性は眉毛が高い位置にある方が優しい表情になり、眉毛の位置が低いと険しい表情になります。ですから、まぶたの手術だと眉と目が近くて険しい表情になるだろうと推測される場合、眉があまり下がらないように頭髪の生え際で皮膚を取ることもあります。
整容性も非常に重要「顔も一つの臓器」
「整容性も改善するとさらに生活の質が上がります」
つまり顔を扱う以上、目が開く機能を治すだけではいけないのです。左右の目のバランスがいいとか、同じぐらい開いているというのは大事なことです。
それが「整容性」です。機能の改善による生活の質の向上に加え、整容性も改善するとさらに生活の質が上がります。自信が出て、家にこもりきりだった人が外に出てみようだとか、また仕事をしようだとか、そうした社会復帰などに結びついてきます。
顔には「人の社会的存在を象徴する臓器である」という見方があります。肝臓や心臓などと同じく、われわれ形成外科医は「顔も一つの臓器」と考えて医療に携わっています。
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