【脳活健康大学】酒や薬と上手に付き合う 血液検査で肝臓を守ろう

代謝、解毒、胆汁の生成・分泌など、健康維持のための多くの働きを担う肝臓。「沈黙の臓器」と呼ばれるように、気付かないうちに異常を起こしていることもあります。悪化の原因はさまざまですが、アルコールはもちろん、健康食品を含む薬類の誤った摂取も原因の一つ。久留米大医学部医療検査学科の有永照子教授は「お酒や薬と上手に付き合うためには血液検査が不可欠。健康診断を受けてほしい」と呼びかけます。
※西日本新聞TNC文化サークルの講座「脳活健康大学」を採録して抜粋・構成

話を伺ったのは?

久留米大医学部医療検査学科
有永照子教授

久留米大医学部医療検査学科の有永照子教授

久留米大医学部内科学講座消化器内科部門、同医療検査学科教授。1988年に同大を卒業し、92年に同大学院医学研究科・内科学を修了。2024年から現職。日本内科学会の認定内科医・指導医、日本消化器病学会の専門医・指導医・九州支部評議員・学会評議員、日本肝臓学会の専門医・指導医・西部会評議員、日本消化器内視鏡学会の専門医。専門分野は肝疾患。

目次

多量の飲酒で肝障害に ALT30超は受診を

肝硬変は慢性の肝炎が続き、肝臓が硬くなる病気です。肝硬変になると非常に高い頻度でがんができることが分かっています。すぐに肝硬変や肝がんになるわけではなく、10〜30年かけて悪化していくため、肝がんによる死亡率は50歳を超えたあたりから上がります。肝臓は「沈黙の臓器」です。慢性の肝臓病の場合、ほとんどが進行してしまわないと症状が出ません。

かつて肝硬変の原因のほとんどがC型肝炎でした。それが約10年前からC型、B型といったウイルス性が占める割合は半分以下になりました。医療の進歩でウイルス性の肝臓病は治せるようになったからです。代わって、最近はアルコールや脂肪肝など非ウイルス性の割合が増えています。

肝硬変の成因の推移

体内に吸収したアルコールの大部分は肝臓で代謝され、アルコールからアセトアルデヒド、さらにアセテート(酢酸)に分解されます。アセテートは水と二酸化炭素に分解されて尿や汗、呼気から体外に排出されます。問題はアセトアルデヒドです。非常に強い毒性があり、悪酔いや二日酔い、さらには肝障害の主な原因になります。日本人はアセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH)の働きが弱い人が多く、血中のアセトアルデヒドが多く残るとこれらの症状が出やすくなります。

肝障害はお酒を過剰に飲むことで出てきます。たくさん飲み続けると肝臓の細胞に脂肪が沈着し、アルコール性脂肪肝になります。さらに進行すると肝細胞が壊れアルコール性肝炎となり、ひいては肝硬変を招きます。

特に女性は男性に比べてお酒に弱いので気を付けてください。肝硬変になると5年後の生存率は、男性が約6割であるのに対し女性は約2割です。また、女性の方が少量のお酒で肝炎を発症します。依存症にも陥りやすく、治りにくい。妊娠の可能性がある人は気を付けないと赤ちゃんに影響を及ぼします。

肝臓について解説する有永教授

また、空腹でお酒を飲むとアルコールの吸収が早まりますから、食事をしながら飲むこと。食事はタンパク質をよく取り、辛いものはお酒が進むのでできるだけ控えてください。強いお酒を飲んだり、グイグイと飲んだりするのもよくありません。

肝臓は「沈黙の臓器」です。つまり、健康診断での血液検査が非常に大事なのです。ALTの数値が高い人は肝がん発症の危険性が高いことが分かっています。また、ウイルス性肝炎などで病院に通っている人に比べ、肝障害があっても受診せずに放置している人は、大きい肝がんで見つかることになります。ですから、ALTの数値が30、もしくはγ(ガンマ)―GTPが40を超えている人は医療機関を受診してください。

薬の過剰な摂取や情報にも注意を

肝臓には栄養素やさまざまな物質が運ばれてきますが、運ばれるものには薬の成分もあります。わが国の2019年のデータで、薬物性肝炎の原因薬剤には、抗炎症薬、抗菌薬、抗腫瘍薬といった医薬品に続いて健康食品が4番目に入っています。健康食品は非常に人気がありますが、被害報告が最も多い臓器は肝臓です。

健康食品にはいろいろなものがあります。「特定保健用食品(トクホ)」は有効性や安全性に関する国の審査を受けています。「機能性表示食品」は審査を受けていませんが、国への届け出が必要で機能の表示義務があります。「栄養機能食品」は国の審査や届け出は不要ですが、栄養成分の機能を表示しなければいけません。この三つを「保健機能食品」といいます。

その他にもいわゆる「健康食品」がありますが、健康補助食品、栄養補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、健康飲料、サプリメントなど別名がたくさんあります。これらには表示の義務や許可、認証、届け出といった国の制度はありません。

健康食品について解説する有永教授

もちろん、健康食品が体に悪いという話ではありません。ただし、健康食品であっても健康を害するケースもあることを知っておいてほしいのです。

例えば不純物が含まれていることもあれば、利尿剤やホルモン剤など医薬品を含むものもあります。偏った成分の過剰摂取になったり、多種の飲み合わせで別の効果が出たり、病院で処方される医薬品の効果を阻害する成分が入っていることもあります。

健康食品は病気を治すものではありません。あくまで食生活の補助として上手に利用しましょう。

肝臓は「沈黙の臓器」 健康診断が不可欠

病院が出す医薬品でも肝障害を起こす可能性はあります。ただ、医薬品には治験データがある上に、病院の採血で異常がないかを確認することができます。一方、市販の健康食品にはチェック機構がありません。ですから、健康食品を含めた薬やお酒と上手に付き合うためには健康診断を受けることが大切になってきます。

肝臓のすごいところは、肝臓に対して環境を良くしていけば修復・再生できることです。職場ではもちろん、職場を離れたシニアもぜひ自治体などの健康診断を受けて肝臓の状態をチェックしてください。

薬物性肝炎の原因薬剤(2019年)

肝臓の検査数値
血液検査で肝機能を測る数値にはALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTPがあります。ALTは肝臓に多く存在する酵素で、肝細胞が壊れると血液中に流れ出して数値が上がります。ASTは心臓や筋肉にも存在し、ALTとASTのバランスで慢性、急性、アルコール性、脂肪肝など肝炎の病態が推測されます。γ-GTPは肝臓の解毒作用に関わる酵素で、主にアルコールが原因の障害が起きると血中に流れ出します。

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