【脳活健康大学】透析にならないために注意すべき腎臓の2つのデータ

 日本透析医学会の統計調査によると、日本の透析患者は約35万人に達するといいます。その水面下には1430万人もの慢性腎臓病(CKD)罹患者もいます。沈黙の臓器・腎臓を気付かぬ間に悪化させないためには、自分の腎臓の〝現在地〞を知ることが不可欠。久留米大医学部内科学講座・腎臓内科部門の深水圭主任教授が、健康診断で得られる腎臓の健康度を示す数値について解説しました。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し抜粋・構成

話を伺ったのは?

久留米大医学部内科学講座・腎臓内科部門の深水圭主任教授

久留米大医学部内科学講座学講座・腎臓内科部門の主任教授
深水圭氏

 1969年生まれ。93年に久留米大医学部医学科を卒業し、同大第三内科(現心臓・血管内科)に入局。2002年、同大腎臓内科学講座に入局。04年から2年間、オーストラリアのベイカーIDI心臓・糖尿病研究所へ留学。15年から現職。

目次

腎臓は沈黙の臓器

腎臓は沈黙の臓器。透析療法とならないように、まずはeGFRや尿タンパクを必ずチェック

 腎臓はいろいろな役割を果たしているため、機能が落ちるとさまざまな病気を引き起こします(上図「腎臓の役割」参照)。機能低下の一番の成因は高血圧。そして喫煙、肥満、糖尿病です。

腎臓は多くの役割を果たしているので機能が落ちるとさまざまな病気を引き起こします


 また「沈黙の臓器」といわれ、腎炎や腎臓病には最後まで痛みがありません。知らないうちに悪化し、体がきつくて診察を受けたときには末期の状態で透析療法に―といったケースが多々あります。慢性腎臓病は数年にわたってゆっくりと悪化しますから、透析が必要にならないためには定期的な検査で状態を知ることが大切です。

将来的な予測もできる「eGFR」

健康診断で得られる腎臓の健康度を示す数値について解説する深水圭主任教授

 健診データに載る「eGRF(イージー エフアール)」 は、症状はなくても現在どの程度の腎機能かが分かる数値です。腎機能を見るにはクレアチニンの数値も重要ですが、それだけでは分かりづらく、eGFRが盛んに使われています。クレアチニンの数値は普通なら1未満で、8になると透析ですが、ずっと低くてもいったん上がり出すと1カ月単位で急激に上昇します。まだ大丈夫だと思っていても、あっという間に透析が必要になるわけです。一方でeGRFは直線的な下がり方をしますから、その先の予測もしやすいのです。

 eGRFは1分間に産生される原尿の量を表しています。原尿とは腎臓で作られる最初の尿です。健常な若い人は1分間に100cc、1日に直すと144ℓくらいの尿が作られます。そのうち、おしっことして体外に出るのは1〜1.4ℓほどで、99%は体内に再吸収されます。
 eGFRの数値が60であれば、こうした機能が60%しかないということです。60未満だと慢性腎臓病で、5くらいに低下すると透析が必要です。 腎臓は加齢によって弱まっていきますが、単なる老化以上に機能が下がる人がいます。早い低下の原因を捉え、治療が必要です。eGFRはほとんどの健診データに載っていますが、クレアチニンの数値しか載らないこともあります。ただし、インターネット上で簡単に求められます。日本腎臓学会の「腎機能測定ツール」では年齢、性別、クレアチニンの数値を入力するとeGFRの結果が出ます。

尿の検査も重要 「尿潜血・尿タンパク」

「沈黙の臓器」といわれる腎臓

 eGFRが60未満であることと、もう一つ、尿検査で尿に血やタンパクが3カ月以上混じっている状態。この二つのうち、どちらか一つがあると慢性腎臓病です。eGFRが100であっても、血尿・尿潜血やタンパク尿が3カ月以上続くのであれば慢性腎臓病なのです。ただし、これも早く発見して治療すれば腎臓が助かります。ですから、尿検査は重要なのです。
 健診データには、尿潜血がある陽性の場合は+(プラス)、潜血がない陰性は-(マイナス)で示されます。血尿が出る病気は、泌尿器科の疾患としては腎臓や尿管の結石、ぼうこうがん、腎がん、前立腺がんなどです。腎臓内科の疾患では腎炎で、悪化すると透析が必要です。

「正しい採尿」を
 検尿で腎臓の状態を正確に知るには、まず正しい採尿が必要だ。お茶やコーヒーなど水分を取ってからだと尿が薄い「希釈尿」となり、尿潜血や尿タンパクがあっても「陰性」となることがある。一方で運動などによる脱水状態では、問題がなくても「陽性」になることも。このため、できるだけ朝一番の「早朝尿」を取ること。就寝中は水分の摂取がなく、安静でもあるためだ。また、尿を少し出してからいったん止めて、その後に採尿した「中間尿」だと尿道や尿管に残った老廃物などが混ざりにくい。

 尿タンパクも+と-で記載されます。腎臓病はどんどん悪くなるパターンと、あまり悪くならないパターンがありますが、その違いの原因の一つは、腎臓の糸球体という組織でタンパクが漏れるか漏れないかです。
 原尿は糸球体で血液がろ過されて作られます。体に必要な赤血球や白血球など血球成分やタンパク質は漏れ出ず、水だけが漏れます。このうち体に不必要な1%の水と老廃物が尿として体外に出されます。この糸球体の働きが低下すると、本来は漏れないタンパク質が尿に混じります。
 タンパクが漏れると尿細管を通って尿になるまでに細胞を全て害するため、腎臓がすごいスピードで悪化します。尿タンパクの数値が「+」だと要注意。沖縄での研究では、「3+」だった人は17年後、「-」だった人の17倍も透析になりました。
 特に糖尿病による腎疾患の場合、タンパクがたくさん出ます。このほか腎炎、肥満による腎臓病、肝炎、リウマチ、高血圧などが尿タンパクの出る病気です。
 とはいえ、例えば腎炎が原因であれば炎症を抑える薬の投与で進行を抑えられるように、早期発見・早期治療は腎臓を助けます。慢性腎臓病の放置から腎臓の萎縮、腎不全、そして透析療法とならないように、まずはeGFRや尿タンパクを必ずチェックしてください。

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