加齢に伴い皮膚が持つバリアーや保湿といった機能が衰えてきます。そこから発生する湿疹や皮膚炎、さらには痛みやかゆみ、乾燥といった症状を軽く見てはいけません。放置すれば体ばかりか心にも悪影響を及ぼし、QOL(生活の質)を低下させることもあるといいます。久留米大医学部皮膚科学講座の古賀浩嗣(こがひろし)教授は、普段のスキンケアなども含めて「皮膚症状をしっかり治療することは、QOLの大きな改善につながります」と説きます。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し、抜粋・構成
話を伺ったのは?
久留米大医学部皮膚科学講座
古賀浩嗣教授
久留米大医学部皮膚科学講座の古賀浩嗣教授
医学博士。2005年久留米大医学部を卒業し、九州医療センター研修医に。07年に久留米大医学部皮膚科学講座の助教となり、13年同大大学院医学研究科を修了。同年からドイツ・リューベック大学皮膚科へ留学。15年に帰国後、久留米大医学部皮膚科学講座の助教、講師、准教授を経て25年から現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。専門分野は自己免疫性水疱(すいほう)症。
目次
“見た目”の悩みで生活の質の低下も
皮膚は体の最前線を守る臓器です。全身を覆うので人体最大の臓器と言われ、成人では重さ約3kg、面積は約1畳分になります。
その役割は四つあります。乾燥など外部からの刺激や細菌から体を守る「バリアー機能」。体内の水分が逃げないようにする「保湿」。「体温・感覚の調整」も担っています。高温や多湿の中でも体温を36度前後に保つため、皮膚が出す汗が蒸発する際の気化熱で体温を下げます。また、体の異常を痛みやかゆみで知らせる痛覚、触覚、温度感覚などを備えています。さらに皮膚から侵入した細菌やウイルスを撃退する「免疫」で感染症を防ぎます。
皮膚を健やかに保つということは、これらの機能を維持することです。機能が損なわれると心身とも健やかではいられません。
まず見た目の問題が悩みを生み、QOLを大きく低下させます。皮膚に異常が起きる疾患として乾癬(かんせん)、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹(じんましん)、円形脱毛症がありますが、こうした疾患を持つ人は精神的に大きな負担を抱えます。
皮膚疾患は軽く見られがちですが、決して侮れません。かゆみは大変なストレスで、睡眠にも影響します。体温調節に支障が出ることもあります。免疫が機能しなければ命に関わる感染症に陥りかねません。アレルギー反応が過剰に起きることもあります。また、乾癬の患者は心筋梗塞や脳梗塞といった心血管疾患のリスクが高いという最近の研究報告もあり、他の臓器の疾患とも関わることがあります。
皮膚の働きについて解説する古賀教授
治療の基本はステロイドの塗り薬
さて、皮膚科を受診する理由で最も多いのは湿疹・皮膚炎で、全体の約3分の1を占めます。アトピー性皮膚炎や外部からの刺激などで皮膚が荒れる。するとバリアー機能が低下し、炎症が起きてかゆみが生じる。そのかき傷でバリアー機能がさらに弱まり、症状が悪化する。このように湿疹にはバリアー機能低下、炎症、掻破(そうは)が絡み合っています。
その治療の基本となるのがステロイドの塗り薬(外用薬)です。これは使い方次第で効果が大きく変わるので、正しい用法を知ることが症状の改善につながります。
使用量を測る目安として、FTU(フィンガーチップユニット)という単位があります。チューブから薬を出すとき、大人の人さし指の先から第1関節まで出すと1FTU=約0.5gになります。これが手のひら2枚分の面積に塗る、薬効を最大限に引き出す必要量です。FTUを目安に、塗る箇所の面積に応じて調整してください。
薬の強さは5段階ほどに分かれ、医師は症状と塗る部位を考慮して処方します。皮膚は部位によって厚さが違い、薬の吸収度も異なります。例えば、顔は体に比べて吸収がかなり良いため、体に処方された薬を顔に塗ると強く効き過ぎて副作用も出やすくなります。ですから、以前に処方された薬を別の部位や目的に使わないようにしてください。
また、見た目には良くなったようでも皮膚には炎症が残っていることが多く、この状態で塗るのを止めると炎症がぶり返します。悪くなったときだけ塗る「リアクティブ療法」ではなく、良くなってからも定期的に薬を塗る「プロアクティブ療法」がぶり返しを抑えます。
熱心に耳を傾ける参加者
大切な清潔と保湿 早めにケアを
飲み薬でよく処方されるのは、かゆみや炎症を抑える抗ヒスタミン剤で、基本的には塗り薬と併用します。また、皮膚炎やかゆみを抑える波長の光を照射する光線療法もあります。
近年登場した飲み薬や注射薬もあり、従来の治療が十分に効かなかった人でも症状の改善が期待できます。ただし、これらの薬の使用には一定の重症度や、既存の治療で症状が改善しない場合といった条件があります。費用も高額ですから、病院で相談してください。
スキンケアは皮膚を清潔に保つことと、保湿することの二つが基本です。清潔に保つためには体を洗うことが大切ですが、ゴシゴシとこすり過ぎると皮膚のバリアー機能を弱めてしまいます。熱いお風呂や長時間の入浴も皮膚のストレスになります。
保湿剤は入浴後10分以内に塗ることをお勧めします。軟こう、クリーム、ローションなどで“これが一番”というタイプはなく、自分が続けやすいものを選ぶのがいいでしょう。擦り込むのではなく、優しく皮膚の上で伸ばすように塗れば十分です。背中は体の中心から外側へ、首や腕、脚は円を描くように塗ると成分がなじみやすくなります。
これから寒くなるにつれて、すねや腰の辺りに乾燥肌のサインが出やすくなります。皮膚がカサついていないか、きめが粗くなっていないか。乾燥のサインに早めに気付き、スキンケアを行うことが重症化を防ぎます。
また、ただ通院するだけでなく、治療などに関する予習・復習もお勧めします。多くの製薬会社が皮膚科医と協力し、疾患に関する情報や知識を分かりやすく紹介するサイトを公開しています。困りごとがあれば、こうしたサイトを活用しましょう。
「皮膚疾患に共通するのは『目に見える』ということ」
皮膚疾患に共通するのは「目に見える」ということです。だからこそ悩みにつながります。加えてかゆみも大きなストレスとなり、社会的な活動に影響を及ぼすこともあります。つらさが周囲に伝わりにくく、理解されない苦しさも抱えます。
しかし、目に見えるからこそ良くなったときの喜びも大きいのです。その笑顔を見ると、こちらもうれしくなります。「輝け皮膚 輝け笑顔」。これは私たち久留米大皮膚科学講座がホームページに掲げているメッセージです。
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