【脳活健康大学】がんになったら運動を 発症予防にも期待大

社会の高齢化に伴い、日本のがん罹患(りかん)者は年々増加。もはや一般的な病気になってきました。一方で早期発見法や治療法の発達で生存率が向上し、がんと共に生きる「がんサバイバー」も増えています。がんでは死なない時代ともいわれる中、手術、抗がん剤、放射線と並ぶ治療法の一つとして、注目されているのが運動療法です。がん治療に携わる久留米大医学部整形外科学講座の主任教授・平岡弘二氏は「運動を生活に加えることでがんの発症、予後の改善が期待できる」と説きます。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し、抜粋・構成

話を伺ったのは?

久留米大医学部整形外科学講座の主任教授
平岡弘二氏

久留米大医学部整形外科学講座の主任教授・平岡弘二氏

1963年生まれ。88年久留米大医学部医学科卒。93年に同大大学院医学研究科を修了し、同大医学部整形外科学講座に入局。98年筑後市立病院整形外科科長、2003年米国スクリプス研究所への留学などを経て、22年久留米大医学部整形外科学講座の主任教授に就任。日本整形外科学会専門医、がん治療認定医、運動器リハビリテーション医、骨軟部腫瘍医。

目次

2人に1人ががん罹患 5年後の生存率は64%

今や日本人の2人に1人、男性に至っては3人に2人ががんになるといわれています。国立がん研究センターによると2020年の新規がん患者数は約94万人。一方で09年から11年にがんと診断された人の5年後の生存率は64.1%です。すなわち半分以上の人は死なない病気。がんを抱えながらも社会復帰した「がんサバイバー」がたくさんいます。

がん治療について解説する平岡氏

がんの治療には手術療法、抗がん剤を用いる化学療法、放射線療法があります。化学療法が一気に進んで長生きできる時代になり、非常に強力な放射線療法も生まれています。ただ、これらの治療は医師にお任せするしかありません。そこで個人でもできる運動療法が注目されています。

運動療法を言い換えるとリハビリテーション(以下、リハビリ)です。その中でがん特有の療法を「がんリハビリ」と言います。がん患者の身体的、認知的、心理的な障害を診断・治療することで自立度を高め、QOL(生活の質)を向上させるのが目的です。

4段階のがんリハビリ 生命の延長も目的に

がんリハビリには四つの段階があります。発症によって体の能力が落ちていくため、治療前や診断後の早期に体を鍛えておく予防的リハビリ。手術や治療後に機能回復を図る回復的リハビリ。がんが再発や増大した場合に今ある機能を保つための維持的リハビリ。末期に少しでもいい生活を送るための緩和的リハビリ。これらが1900年代から行われてきました。

がんリハビリテーションの目的

こうした身体機能の回復に加え、最近は身体症状の緩和や、生命予後の延長まで目的が拡大してきました。このためリハビリ科医に任せるだけではなく、手術の執刀や抗がん剤の投与をする治療医も運動療法の重要性を十分に認識した上で、トータルの治療を提供する必要があるというのが現在の考え方です。

痛み、死亡率など減 有効性示す結果多数

運動療法の有効性について世界的に多くの論文が出ています。がん患者はいろいろな痛みを訴え、基本的に安静をとります。しかし、有酸素運動と抵抗運動(筋力トレーニング)を行うと痛みの減弱が確認されたと報告されています。

がんや心筋梗塞などの病気と握力、死亡率の関係を調べた論文では、握力の弱いがん患者たちは強い患者たちのほぼ倍の死亡率を有すると発表されています。また別の論文によると、肝がんによる肝臓の切除後に筋肉量の減少が激しかった人たちは5年後の生存率が71%だったのに対し、減少が少なかった人たちは約83.7%でした。

メモを取りながら熱心に聴講する参加者

私たち久留米大の橋田竜騎講師は、肝がんでがんリハビリをしたグループは、しなかったグループより生命予後が3カ月延長したという論文をまとめました。患者にとって3カ月は非常に大きなものです。なおかつ運動ができたということは、寝たきりで最期を迎えるのではなく、ぎりぎりまで自分の生活を維持できたということです。

ほかにも乳がん、または大腸がんの診断後に中強度の運動を週に150分した人たちは、死亡リスクが乳がんで24%、大腸がんで28%低下したという海外の論文もあります。

運動量・方法に注意 専門医らに相談を

日本よりも先進的な米国では、スポーツ医学会が積極的な運動を推奨しています。同学会は乳がん、大腸がん、前立腺がんで生存率の向上を証明しています。また、膀胱(ぼうこう)がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜がん、食道がん、腎がん、胃がんは運動によって発症率が下がる可能性があるとしています。運動を生活に加えることで、がんの発症や進行を抑えることができるのです。

がんになったら運動を意識してください。ただし、やり方や量をよく考えないと、けがをしてかえって動けなくなることも起こり得ます。運動療法は主治医としっかり相談してから始めること。ユーチューブなどを見て自分で始めてしまう人がいますが、これはちょっと危険です。まずはホームドクターを持ち、可能であればがん専門医と整形外科医の2人に相談すると非常にいいでしょう。

骨転移なら手術と運動を避けたい「がんロコモ」
骨や関節、筋肉、神経など運動器に障害を受けて移動能力が低下した状態をロコモティブシンドローム(運動器症候群)といい、要介護になるリスクが高まります。障害が、がん自体、あるいはがん治療に起因するのが「がんロコモ」。その最大の原因は骨転移です。

がんが転移した骨は溶けるため、骨の強い痛みや変形した骨が神経を圧迫してしびれが起こり、運動を困難にします。しかし、最近は骨転移があっても患者に医師らの監督下での運動療法の実施が提案されています。

例えば太ももの骨が溶けた場合、骨を金属で補強や代替する手術後、歩く練習をします。歩行能力や動く量の維持は生活の質の維持に重要で、生命予後も改善する可能性があるからです。

「手術は怖いでしょうが、歩くことの重要性や運動の必要性を認識し、手術を受ける価値があることを理解してほしい。骨転移があると余命が短い、安静にしなければ、痛みに耐えなければという時代は終わっています」と平岡教授。治療・運動の方針は入念なチェックを行った上で、がんの専門医、整形外科医、放射線治療医、リハビリ医らが集まって患者と相談しながら決めています。患者の独断での運動は禁物です。

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