認知症になると記憶や見当識の障害、妄想、徘徊(はいかい)など多種多様な症状が現れるもの。援助者はそれを理解していても、特に相手が近親者だとつらく当たってしまいがちなのが実情でしょう。「過去の講座などでも、対応方法を教えてくださいという声は多い」と語るのは久留米大学高次脳疾患研究所講師で、同大学病院・もの忘れ外来で診療する佐藤守氏。そこで今回は、同氏の講座「これだけは知っておきたい認知症のこと〜明るく元気に生きるコツ〜」の中から、具体的にどう接するべきかに焦点を当てました。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し、抜粋・構成
話を伺ったのは?
久留米大学高次脳疾患研究所講師
佐藤守氏
久留米大学高次脳疾患研究所講師の佐藤守氏
医学博士。1981年生まれ、大分県別府市出身。久留米大学医学部卒、同大学院医学研究科博士課程修了。2015年から17年までドイツ・テュービンゲン大学病院精神科に留学。久留米大学医学部神経精神医学講座、高次脳疾患研究所講師、久留米大学病院もの忘れ外来担当医兼務。日本老年精神医学専門医、認知症サポート医。
目次
不安を安心に変える 相手に寄り添う一言
「認知症のある人」に接する時、「認知症」ばかりに着目すると「話しても仕方ない」「やっても無駄」といった否定的な見方になり、対応も進まなくなってしまいます。大事なのは「人」に着目すること。この人と接したいと考えれば、限界はあっても相手の持つ能力を発見し、見極めや働きかけができるようになります。
例えば認知症の人が同じ質問を何度も繰り返す場合、どう返答すべきでしょうか。対応例のように、ちょっとした言葉の違いが相手の不安を軽減して安心を保証します。認知症になると、いろいろなことを忘れてしまい不安になります。それがたった一言で安心に変わるのです。認知症の人に限らず、その予備群ともいえるMCI(軽度認知障害)の人にも、こうした声かけ、接し方がすごく大事です。
「もの忘れあるある」具体的な対応例
認知症が進行すると、妄想が出ることがあります。よくあるのは「財布が見つからない。誰かが盗んだのではないか」といった物盗(と)られ妄想で、最も疑われるのは同居者など身近な存在です。「あなたが取った」と言われて、「取るわけがない」などと強く答えると「ムキになるなんて、やっぱりあなたが盗んだに違いない」と妄想が強化されてしまいます。
では、この場合に何をすべきでしょうか。イライラせずに一緒に探すのです。探し物が見つかったら責めるような発言はせず「よかったね」などと声をかけます。先に見つけて手渡すと「あなたが持っている。やっぱり盗んだ」と疑います。ですから「この辺を探してみたら」と誘導し、本人に見つけさせることもポイントです。
物盗られ妄想について説明する佐藤氏
責めず、否定せず 状況に応じた工夫も
認知症が進むと幻視・錯視の症状が出て「そこに女の子が立っている」「虫がいっぱいいる」などと言い出すこともあります。その時は、頭ごなしに「何もいない」と返してはいけません。本人には見えているのだから否定しないことです。否定すると「誰も信用してくれない」という不信感を生みます。
自分にも見えている感じで「怖いね」「変だね」と相手の気持ちを代弁しながら会話するのが大事です。「どの辺に見える?」と聞けば、本人が「この辺に」などと対象物に触れたり、いったん視線をずらしたりすることで幻覚が消える場合もあります。虫がいると言う場合は、殺虫剤に見せかけて消臭剤や芳香剤などを吹きかけることで、落ち着くこともあります。
服薬拒否も多くみられます。認知機能が落ちてくると自分が病気であることが分からなくなります。このため「どうして薬を飲まなければいけないのか」と抵抗するのです。
認知症の症状について解説する佐藤氏
この場合、なぜ薬を飲みたくないのかをしっかりと聞いてあげます。すると「大きくて喉に詰まる」「おなかが膨れてしまう」など、何かしらの理由があることが多いです。かかりつけ医に相談し、飲みやすい形の薬にしてもらうとか、服用回数を減らしてもらうといった対応で抵抗がなくなることがあります。
妄想で「毒が入っている」などと言う人もいます。この場合は、目の前でラムネ菓子を薬のように飲んでみせる方法もあります。または「これは長生きする薬」などと言うことで、飲んでみようという気持ちに変わったりします。
最も効くのは「人薬」 穏やかな心で対応を
徘徊(一人歩き)には気を付けないといけません。警察庁によると2023年の日本全国の行方不明者は約9万人でした。そのうち約2万人は認知症の人で、うち約500人が遺体で発見されています。徘徊は実に危険です。
その対策として、外に出ようとすると音が鳴るセンサーを玄関に設置する家庭も多くなってきました。靴の中に仕込めるGPS(衛星利用測位システム)端末も市販されています。認知症の人は大体、いつものカバン、いつもの靴といった同じ格好をします。お気に入りのものにGPS端末を付けておくのです。
熱心に聞き入る参加者
施設に入ったものの「家に帰りたい」と落ち着かなくなる帰宅願望もよくあります。施設スタッフがよく行う対応は「今日はもう遅いから、夕飯でも食べていって」とか「今日は遅いから泊まっていきませんか」とか「ちょっとタオルを畳むのを手伝って」といった声かけです。そうしていると、いつの間にか帰宅したい気持ちを忘れてしまうことがあります。
では、認知症の人にこうした嘘(うそ)をつくのは良いことでしょうか。嘘をつくのは倫理的、道徳的に良くないですし、ばれた時には信頼関係を失う可能性もあります。しかし、海外でもホワイト・ライズ(White Lies、白い嘘)と呼ぶように、認知症を患う人のことを思う「やさしい嘘」は時として必要ではないかと思います。
「認知症の人の行動は援助者の鏡」と話す佐藤氏
もう一つ大事なのは、認知症の人は私たちの表情や行動に敏感であることです。イライラした態度で接すると、イライラした言動を返します。穏やかな気持ちで接することで、相手の穏やかな状態も作り出すのです。「認知症の人の行動は援助者の鏡」。そう心がけて接してください。
人は人との関わりの中でしか生きられません。人の感情、幸福感、満足感を左右するものは人間関係があってのものです。認知症の人への対応も関わり方次第。認知症者にもっとも効く薬は「人薬(ひとぐすり)」です。
インターネットも活用を
認知症ケアに携わる人々のコミュニティーサイト「認知症ちえのわnet」を閲覧するのも対応の参考になるかもしれません。日本医療研究開発機構の支援を受けて開設されたサイトで、一般の介護者や医療および介護事業関係者らがケアの実体験を投稿しています。「症状別に検索でき、うまくいったことも、うまくいかなかったことも書かれています。対応が難しい時、何かヒントが得られるかもしれません」と佐藤氏。利用者登録が必要ですが、利用は無料です。
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