40歳代から始まる加齢性難聴は、実は認知症の危険因子でもあります。そこで大事になるのが予防、早期発見に加えて補聴器の着用。久留米大医学部耳鼻咽喉科・頭頸部(けいぶ)外科学講座の講師で聖マリア病院耳鼻いんこう科診療部長の三橋亮太氏は「聴力検査をして適切な対応をすれば、病気の場合は治すことができるかもしれませんし、加齢性の場合でもがっかりせずに補聴器をする。会話の機会を減らさず、脳を刺激して萎縮させないことが重要」と説きます。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し、抜粋・構成
話を伺ったのは?
久留米大医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座の講師
聖マリア病院耳鼻いんこう科診療部長・三橋亮太氏
聖マリア病院耳鼻いんこう科診療部長の三橋亮太氏
医学博士。2005年久留米大医学部卒。24年から聖マリア病院耳鼻いんこう科診療部長を務める。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医、同学会耳鼻咽喉科専門研修指導医、同学会補聴器相談医。日本耳科学会耳科手術指導医。
目次
40歳代から始まり75歳以上は半数に
家族からテレビの音量が大きいと言われた。会話中に聞き返しが多い。聞き返しが多くて相手に気を使い、聞こえたふりをしたが、実は理解できていなかった。こうした症状はありませんか。もしあれば、加齢性難聴が始まっているのかもしれません。
難聴は音が聞こえない状態を指すものではありません。言葉を聞くのに少し疲れるとか、少し苦労するとかを感じる時点で、もう難聴なのです。
初期の難聴は気付きにくいものです。また、加齢による症状で仕方がないと放置してしまう場合もあります。難聴でも日常生活が送れるため、あまり問題意識が出てきません。しかし、10年、20年すると大きな音は聞こえても会話として聞き取れないといった状態に進行する可能性があります。
熱心に聞き入る講座参加者
日本人の年代別の聴力を調べると、男女に関係なく40歳代で難聴が始まり、高い音の聞き取りが徐々に悪くなります。60歳代ぐらいから「か行」と「さ行」が聞き分けづらく、早口の会話や、周囲に雑音があると聞き取りにくいといった症状が出てきます。
はっきりしない語尾も聞き取りにくくなります。日本語は語尾が否定になるか肯定になるかで意味が変わりますから、はっきり聞こえないと逆の意味に捉えてしまうことがあります。さらに、背後や遠くから話しかけられると気付かないことが増えます。75歳以上は半数の人が難聴に悩んでいるといわれています。
治療難しい感音難聴 補聴器の力を借りる
耳の中には鼓膜と耳小骨があり、鼓膜より外側を外耳、鼓膜から耳小骨までが中耳です。外耳・中耳の病気による難聴を「伝音難聴」と言い、これは手術などで治療可能です。一方、さらに奥の内耳にある蝸牛(かぎゅう)という器官や神経に原因がある「感音難聴」の治療は困難です。
加齢性難聴について解説する三橋氏
加齢性難聴は感音難聴に含まれます。蝸牛の中にはびっしりと毛が生えたような有毛細胞があり、音の波によって毛が跳ねることで発生した電気信号が、神経から脳に伝わることで音が聞こえます。その細胞の毛が加齢などによって減ってしまうのです。
高度・重度の難聴であれば蝸牛に人工内耳を埋め込む手術など治療は発達していますが、まず大事な対応が補聴器の使用です。
会話で脳を刺激 社会的孤立も防ぐ
一昨年、「ランセット」という世界的に有名な医学誌が14の認知症リスクを挙げました。運動不足、糖尿病、高血圧、喫煙、肥満、過度の飲酒、社会的孤立、視力の低下などが挙げられていますが、これらの中で最も危険度の高い因子は高脂血症と難聴でした。
認知症の危険因子を解説
人は会話をするとき、相手の話を聞いた瞬間に大体の意味を理解し、相手の感情も読み取った上でスムーズに返答します。これはかなり高度な作業で、難聴になると話を聞くことにいっぱいいっぱいになり、意味や感情を理解した返答や、その場に即した話をするのが難しくなります。そうすると人との会話に疲れ、会話すること自体が減ってきます。
会話が減ると、脳への刺激が減ってきます。脳は刺激しないと衰え、萎縮して容量が低下します。また、コミュニケーションがうまくいかなくなると社会的な活動が減り、孤立から鬱や無気力を招きます。
こうした認知症のリスクを遠ざけるため、補聴器を着けてコミュニケーションの機会を維持し、脳を刺激することが重要です。難聴になったら早めに補聴器を着けること。遅れれば遅れるだけコミュニケーションの時間が減り、脳の刺激が減ります。
予防・早期発見も大切 耳鼻科で定期検査を
予防と早期発見も大切です。ぜひセルフチェックを行ってみてください。チェックシートは日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページにも掲載されています。チェック項目に一つでも当てはまれば、お近くの耳鼻科で検査を受けてください。
健康診断での聴力検査はあくまでも簡易検査です。耳鼻科での検査で伝音難聴なのか、感音難聴なのか、あるいはその両方なのかを調べます。同時に難聴の程度も分かります。
皆さん、視力や眼圧など目の検査はよく受けられると思います。では、耳の検査は受けていますか? 定期的に検査を受けることもお勧めします。
集音器との混同に注意
補聴器の使用を検討する場合、気を付けたいのが「集音器」との混同です。
補聴器は専門の販売店で売られ、購入前に試用期間が設けられています。この期間に認定補聴器技能者が使用者に合わせた細かい調整を行い、その効果に納得してからの購入も可能。購入後の調整もできます。
一方で集音器は比較的安価で容易に手に入りますが、調節できるのは音の大小のみ。会話だけでなく周囲の雑音も大きくなるため、合わない人が出てきます。
補聴器は高価なだけに、まずは補聴器相談医のいる耳鼻咽喉科を受診しましょう。
あわせて読みたい
【脳活健康大学】いろいろな病が「目に見える」年に1度は眼底検査を
「目は特に糖尿病や脳、血管の疾患とつながっています。健康のバロメーターです」と久留米大医学部眼科学講座の主任教授・吉田茂生氏は語ります。