手足が痛い、しびれる、うまく歩けない。さらには箸が使えない、排尿・排便がうまくできない。脊椎にある神経系がダメージを受けると、そんな日常生活に支障を及ぼす症状が出てきます。その原因となる病が、加齢に伴い増加する「腰部脊柱管狭窄症」や「頸椎症性脊髄症」です。
久留米大医学部・医学教育研究センター教授で整形外科医の山田圭氏に、この二つの病気について解説してもらいました。
話を伺ったのは?
久留米大医学部・医学教育研究センター
山田圭教授
久留米大医学部・医学教育研究センターの山田圭教授
久留米大医学部・医学教育研究センター教授。整形外科医。1992年久留米大医学部を卒業。96年にテキサス大医学部薬理学教室に留学。2009年から久留米大整形外科の医局長、講師、准教授を経て、24年から現職。整形外科専門医。脊椎脊髄病医、脊椎脊髄外科専門医。日本骨・関節感染症学会、日本脊髄機能診断学会理事、日本運動器疼痛学会、日本疼痛学会の代議員も務める。趣味は読書、音楽鑑賞とテレビドラマ。
目次
腰部脊柱管狭窄症(LCS)に多い症状 続けて長く歩けない
腰部脊柱管狭窄症(以下、LCS)の症状は非常に多彩です。しばらく歩くと腰や足がきつくなって立ち止まることを繰り返す「間欠跛行」が典型的です。
「足が痛い、しびれる。よく足がつる。さらには尿が出にくい、排尿しているのが分からない」などの症状を受診者は訴えることもあります。
腰部脊柱管狭窄症が疑われる症状
背骨は積み木のように骨が重なってできていて、背骨の中には神経が通っています。また、重なった骨と骨の間にはクッションの役割をする軟骨(椎間板)があります。
正常な腰椎の断面図
年齢を重ねると軟骨が劣化してつぶれ、まるで使い古した座布団から中の綿が飛び出したような状態になります。また、後方の骨の内側にある黄色靱帯も厚くなり、前後から神経や神経周辺の血管を圧迫します。さらに、後方の骨と骨のつぎ目(椎間関節)が狭くなりトゲ(骨棘)ができて、神経を圧迫する状態になります。これらが、いろいろな症状の原因となるのです。
腰部脊柱管狭窄症の断面図
治療はまず運動療法、それで改善しなければ薬やブロック注射の併用、これらが効果がない場合は手術を検討します。手術は数種の方法があり、患者の状態に応じた方法を選択します。
手術をするか否かは、生活の中での困り具合も判断材料となります。例えば家にずっといる人であれば、無理に手術する必要はありません。ただし、排尿に問題がある場合や、足がまひして動かないといった場合は、医師に早く相談した方がいいでしょう。
7割以上の人は手術をしてよかったと回答した報告もあります。
より症状重い頸髄症 歩行できないことも
首の神経を圧迫する頸椎症性脊髄症(以下、頸髄症)の場合は、LCSより症状がひどくなります。首と腰の骨の構造は同じですが、首の骨の中には脊髄が入っているからです。
水道管に例えると、脊髄は街の中を通っている本管です。一方で腰の骨に入っている神経は、本管から枝分かれして各家庭に届いている水道管です。枝の1本に支障があっても街全体が大きく困ることはありませんが、本管がやられると困り方が強くなります。
例えばLCSの患者は、高齢であっても歩いて来院できます。一方で、頸髄症の場合は車いすで来られます。手の力も落ち、足も上げられません。LCSで足が上げられなくなることはあまりありません。
症状としては、手がしびれて箸が使いにくくなったり、シャツの一番上や袖のボタンが留められなくなったりします。また、足のしびれや、歩行時はつま先が外に向いて小股でゆっくりとした赤ん坊のような歩き方になります。この時点では「加齢のせい」と片付けてしまいますが、歩けなくなってくると受診するケースが多いです。
頸椎症性脊髄症の症状
脊髄の圧迫があって、歩けなくなると薬やリハビリでは治らないため、手術を検討します。手術の方法はいろいろとありますが、ここでも生活の中での困り具合や手術後の合併症の問題など、踏み切るか否かは非常に難しい判断になります。
脊髄の圧迫と手術法について説明する山田教授
手術の結果、約半数は自分で歩けるようになったというデータがあります。また、歩けるようになった人の多くは下肢の機能や生活の質などが良くなったと回答しています。また頸髄症の患者の約7割は、移動機能低下(ロコモティブシンドローム=運動器症候群)の重症度が最も重いロコモ3ですが、手術をすると約4分の1の人はその状態から脱したという報告もあります。
では改善した人と、しなかった人の違いはどこにあるのでしょう。それは歩行が悪化してから早く手術したかどうかです。歩行があまり悪くなっていない人の方が治りがいい。つまり歩けないような重症化をする前に手術した方がいいのです。LCSは決断まで時間的な猶予を持てますが、頸髄症の場合はあまり待てません。
LCSも頸髄症も命に関わる病ではありません。しかし、例えば寝たきりになると体全体が弱るように、間接的に命につながっているというデータもあります。
うまく歩けない、手や足がしびれるなどの異変を感じたら、早めの受診をお勧めします。
簡単なチェック法
LCSや頸髄症を患っていないか。まずは自分でチェックを。
LCS
1分間ほど体を後ろに反らし、脚が次第にしびれてくるようだと要注意。後ろに反ると、より脊椎内の神経を圧迫する状態になるため。
頸髄症
①手を胸の前で真っすぐに伸ばし、全ての指をくっつける。薬指や小指を付けられないのは危険サイン。
②同じく手を上げて10秒間、回数を数えながら、できるだけ速く開いて閉じて(グー、パー)を繰り返す。左右どちらか一方の手でもOK。正常だと約20回できるが、10回前後なら発症している可能性がある。
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