スポーツバイオメカニクスを知ることで、筋トレは効率的に。負荷をかける”コツ”をおさえると、ながら筋トレも可能になります。重いものを持つとき、家事をするとき、日常の筋トレチャンスを有効活用しましょう。
目次
筋肉の収縮で関節は曲がる
話を伺ったのは?
久留米大人間健康学部スポーツ医科学科
大島雄治准教授
久留米大人間健康学部スポーツ医科学科の大島雄治准教授
新潟県出身。2006年筑波大体育専門学群を卒業後、09年に同大大学院修士課程体育研究科、17年に同博士後期課程人間総合科学研究科体育科学専攻をそれぞれ修了。博士(体育科学)。立命館大共通教育推進機構の講師を経て、21年に久留米大人間健康学部スポーツ医科学科の講師に。23年から現職。学生時代は陸上・十種競技の選手。
スポーツバイオメカニクスとは
バイオは生物や生体、メカニクスは力学という意味。画像や測定機を用い、スポーツをする際の人体の動きを力学的に分析して数値化します。
人が動作を行う際にどの筋肉を使い、どのぐらいの負荷がかかるか。また、例えば陸上・走り高跳びであれば、好成績を残す選手はどのように体を動かし、踏み切り時にどのぐらいの筋力を発揮しているか。このほかスポーツの上手な人と下手な人の動作の違い、けがをよくする選手の特徴などを解析します。
バイオメカニクスの知見は、リハビリテーションや高齢者の日常動作にも役立てられています。
スポーツバイオメカニクスについて講義する大島氏
まずは重い荷物を運ぶ場合に、腕のどこが疲れるかを考えてみてください。二の腕の前の方ですか、それとも後ろの方ですか。答えは前の方、上腕二頭筋です。荷物の重さで肘が伸ばされようとしますが、それに耐えるためには上腕二頭筋を使わないといけないからです。
筋肉は力を発揮しようとすると、ぎゅっと縮んだ状態になります。上腕にできる力こぶは筋肉が縮んだ状態です。この筋肉が縮むことによって肘が曲がる仕組みになっています。人間は運動を行う場合、筋力を発揮するために筋肉が縮み、その結果、関節が回転するのです。
膝を伸ばす運動でも同様です。膝が伸びる時には膝の前から太ももの前側にある大腿(だいたい)四頭筋に負荷がかかって縮みます。逆に膝を曲げる時には、太ももの後ろ側の筋肉が縮むのは容易に想像できるでしょう。
ですから、例えば「ここの筋肉を鍛えたいな」と思った場合には、その筋肉が縮まると、どの関節がどう回転するかを考えれば、鍛えたい筋肉に負荷をかける方法も導き出せます。肘を曲げる運動なら、上腕の前側の上腕二頭筋が鍛えられます。後ろ側の上腕三頭筋を鍛えたければ、肘を伸ばす時に負荷がかかる運動が必要になるのです。
熱心に聴講する参加者
重さと距離で負荷が変わる
さて、重りを持つと、その重力によって肘が伸ばされる回転力(トルク)が生まれます。重りを持ち上げるためには上腕二頭筋が縮んで筋力を発揮し、前腕の骨を引っ張り上げないといけません。この引っ張り上げる時に、今度は筋力によって肘が曲がる回転力が生まれます。この回転力が、重力によって肘が伸ばされる回転力よりも大きくないと、物を持ち上げることはできません。
その回転力は、重力や筋力などの力の大きさと回転の中心となる肘から重力の作用線までの最短距離の掛け算で求めることができます。「力(N)×長さ(m)=回転力(Nm)」なのです。
では、何か重たい物を持つ場合に、腕を90度に曲げて持つのと、腕を下ろした状態で持つ場合、どちらが上腕二頭筋への負荷が大きいでしょうか。
肘を曲げた状態だと、回転の中心(肘)から重力の作用線(手)までの距離が長いため、重りによる回転力が大きくなってしまいます。これに対して肘を伸ばした状態だと、中心からの長さが短くなり、回転力は小さくなります。よって肘を伸ばした状態の方が疲れません。
また、例えば腹筋運動を両腕を胸の前に当てて行う場合と、腕を伸ばした状態で行う場合では、どちらの負荷が大きくなるか考えてみてください。
まず腹筋運動で、どの関節がよく回転するか。足首、膝、股関節…。よく回転するのは股関節です。股関節を回転させることによって、体を起こしたり倒したりします。つまり回転の中心は股関節です。腕を伸ばすのは、股関節からより遠くに重りを置いた状態。このため腹筋への負荷が大きくなります。
ですから、負荷を小さくしたければ腕を胸の前に置き、負荷を上げたければ腕を伸ばす。回転力は重力×長さですから、重りが体のどこにあるかで負荷が変わるのです。
1. 筋力を発揮することによって筋肉が縮む結果、関節が曲がる。
2. その関節を曲げる力(回転力)は、力の大きさと回転の中心からの長さで決まる。
この二つのバイオメカニクスの知識を覚えておけば、トレーニングだけでなく日常生活でも役に立つ場面があるのではないかと思います。
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