シニアにとって膝の不調は代表的な悩み。その“対策”として、久留米大人間健康学部スポーツ医科学科の教授で膝のドクター・副島崇氏が推奨するのが「久留米大式ひざパーソナル訓練」。膝回りの筋肉の強化と膝(しつ)関節の可動域の維持を狙うトレーニング法です。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し、抜粋・構成
話を伺ったのは?
久留米大人間健康学部スポーツ医科学科
副島崇教授
佐賀県唐津市出身。久留米大医学部卒、同大学院修了。同大病院整形外科「足・膝・スポーツ整形外科グループ」の主任医師を経て、2016年から現職。日本膝関節学会評議員、日本スポーツ整形外科学会代議員、日本臨床バイオメカニクス学会評議員および編集委員なども兼任。現在も膝関節外科医としてJCHO久留米総合病院で専門診療を続けている。
目次
膝関節の軟骨がすり減る、剥がれる
変形性膝関節症は突然起きるのではありません。加齢とともに関節も次第に壊れ、ある一定のレベルまで悪くなると痛みが出ます。いきなり痛くなったようでも、悪化は何年も前に始まっているのです。
床の上で膝を真っすぐに伸ばした時、膝裏と床の間に指が1本以上入る隙間ができるなら変形性膝関節症の最初の症状です。膝を動かすと音がする、正座の状態まで曲がらないといった症状も痛み出す前にあります。進行するとO脚になり、歩き方が少しおかしいなどの症状が出ます。
膝関節で何が起きているのでしょう。大腿(だいたい)骨と脛骨(けいこつ)の間にはつるつるとした軟骨があり、それがスムーズに滑るようにして膝が曲がります。その軟骨がすり減ったり、剝がれてきたりしているのです。
体重を増やさない 正座は極力控える
軟骨は修復力のない消耗品で、気付かないうちに小さな傷が蓄積します。その蓄積で剝がれてしまうと、むき出しになった骨同士がぶつかって削り合うようになります。軟骨に神経はありませんが、骨には神経や血管があるので突然痛みだしたり、炎症が起きて水がたまったりします。
使い切りの消耗品ですから、今以上に傷まないような維持や、残った軟骨をうまく使う必要があります。膝が痛くない人も、これから痛みが出ないように予防することが大切です。
最も効果的なのは体重を減らすことです。しかし、無理なダイエットは他の病気につながる可能性があります。そこで、膝が痛み出した時の体重よりも「増やさない」ことを心がけてください。
正座やあぐらは軟骨を傷めやすいので極力避けましょう。また、歩いて膝が痛い人は歩かないこと。「痛くても歩かないと寝たきりになる」というのは誤った認識です。骨同士がぶつかる状態になると、歩けば歩くほど上の骨が下の骨を削って痛みます。
膝回りの筋肉を強化 関節の可動域を維持
「歩いて鍛えないと筋力が付かない」というのも誤りです。ウオーキングやジョギングは筋力アップの効果が薄く、しかも軟骨を削りやすい運動です。内科的な疾患の改善でウオーキングやジョギングが必要であれば、水中ウオーキングや自転車型トレーニング器具を活用しましょう。つまり、軟骨を傷めない、膝の痛みを感じない正しい方法で運動しましょう。
筋肉が衰えるとダイレクトに軟骨に衝撃がかかるので、保護のためには膝周りの筋肉を維持する必要があります。また、関節の可動域が狭いと軟骨の同じ部分ばかりが削れるので、広く大きく動く状態の維持も大切です。そこで筋肉を鍛え、関節の動きを保つための運動療法「久留米大式ひざパーソナル訓練」(下記)を紹介します。
少し高負荷ですが、全く筋肉痛が出ないようでは効果もありません。最初から1〜9項目の全てをやるのは大変かもしれません。まずは1日に2、3項目を各10回から始めて、少しずつ項目と回数を増やしていきましょう。
久留米大式ひざパーソナル訓練
準備運動
1.あおむけに寝て、脚を曲げたり伸ばしたりする。片脚10回以上。
2.床に脚を伸ばして座る。一方の脚を曲げて両腕で抱えながら前方に5秒間伸ばす。さらに体に付けるように引いて約20秒間保つ。入浴中に行うとより効果的。片脚10回以上。
寝て
3.両脚を伸ばしてあおむけに寝る。足首を手前に曲げ、膝を床面に強く押し付けて5秒間保つ。力の入れ方が分からないときは、膝下に枕などを置いて押さえつける。片脚10回以上。
4.あおむけに寝る。太ももの筋肉を締めて、膝を真っすぐに伸ばす。片方の脚を床面から10cm浮かせて5秒間保つ。片脚10回以上。
5.両膝を立ててあおむけに寝る。腰を上げて一方の脚だけ真っすぐに伸ばす。脚を入れ替えて同様に行う。片脚10回以上。
6.うつぶせに寝て、腰を真っすぐに伸ばして両膝をそろえる。足首を曲げ、片方の膝をできるだけ曲げて5秒間保つ。片脚10回以上。
椅子に座って
7.つま先を上げ、太ももの筋肉を締めて膝を真っすぐに伸ばして5秒間保つ。片脚10回以上。
8.両脚を交差させ、上の脚で押し返しながら下の脚の膝を伸ばす。真っすぐに伸ばしたら、今度は下の脚で押し返しながら上の脚の膝を曲げる。脚を上下入れ替えて片脚10回以上。
9.両腕を組む。ゆっくりと立ち、さらにゆっくりと座る。20回以上。
注意点
・腰や股関節など、筋肉痛ではない痛みを感じる時はその運動をやめる。
・椅子に座った状態で行っても膝に痛みを感じるならば悪化が進行している可能性があるので病院で診てもらう。
鍛錬のポイント
・膝に痛みのない段階からしっかり伸ばす訓練をしていると、柔らかい膝が保てて悪化が進まない。一方で一度固くなると伸びなくなる。
・筋肉痛が出る運動を、例えば2日続けて1日休むと、休んだ日に筋線維が増える。余裕があれば3日続けて1日休む。そうしたリズムが効果的。
・20回できなければ10回でも構わない。ただし、10回と決めたら11回やる。最もきつい“プラス1回”が効果を発揮する。