【脳活健康大学】骨折リスクを遠ざける 転ばぬ先のストレッチ

「骨折・転倒」は要支援・要介護となる原因の一つ。その回避のためには筋力の維持と同時に、筋肉の柔軟性を取り戻すことが大切です。今回のテーマは転倒しない姿勢をつくるためのストレッチ法。久留米大人間健康学部スポーツ医科学科の原賢二教授は「毎日少しずつでも生活に取り入れてほしい」と語ります。
※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録し、抜粋・構成

話を伺ったのは?

久留米大人間健康学部スポーツ医科学科
原賢二教授

久留米大人間健康学部スポーツ医科学科の原賢二教授

博士(スポーツ医学)。島根県出雲市出身。筑波大大学院博士課程を修了。2008年から久留米大でアスレティックトレーナー教育に携わり、今年から現職。専門はアスレティックトレーニング。これまで多くのアスリートの外傷・障害予防やコンディショニングを担当。日本アスレティックトレーニング学会代議員などを務める。

目次

良い姿勢が生む バランスの安定

加齢とともに骨折のリスクが上昇します。高齢者は股関節、肩、手首、背骨の骨折が多く、股関節や背骨の骨折によって寝たきりになるケースもあります。これらの骨折の原因で多いのが転倒です。
転倒を防ぐには体のバランスが重要ですが、バランスは姿勢と深い関係があります。では、どこに体の重心があるとバランスが安定した良い姿勢になるのでしょう。

転倒しない姿勢をつくるためのストレッチ法について解説する原教授

立っている時にバランスを取ることができるエリアは足の親指の下の母趾球(ぼしきゅう)から、かかとまでです。もし、かかとに重心がある場合、後ろから押されても前方には倒れにくいですが、前から押されると簡単に後方へ転んでしまいます。重心がバランスを取ることができるエリアの中心辺り、足首の関節の真下より少し前にあれば、前後にバランスの余力があります。
ただ、そこに重心を置くには、ふくらはぎの筋肉の支えが必要です。このため、ふくらはぎの筋力が弱ってくると、かかと寄りに重心を置いて、ふくらはぎが頑張らなくてもいい楽な姿勢で立ちがちです。脚が疲れた場合も同様です。
そうなると転倒リスクが高まります。高齢者の骨折の原因として多いのは後方への転倒です。尻もちをついて背骨を圧迫骨折したり、少し横向きに倒れたときに手をついて上腕や手首を骨折したりするのです。

また、年齢を重ねると背中が丸まりやすくなり、その連鎖として頭の位置が前に出たり、膝が曲がったりします。背中が丸まると上体が下を向くため、顎を上げ、さらには膝を曲げることで正面を向こうとします。すると骨盤が後ろ側に傾き、後方重心の姿勢になってしまいます。
骨盤が適度に前に倒れているのが理想の姿勢です。そのためのポイントは胸を張り、股関節と膝をしっかりと伸ばすこと。硬くなったお尻や太もも裏の筋肉は骨盤を後ろに引っ張ろうとするので、それらをしっかりと伸ばして柔軟にするストレッチが大切なのです。

日常生活に取り入れ 少しずつでも効果

ストレッチングの継続には柔軟性の向上だけでなく、筋力の改善、筋肉の量や太さの維持、筋肉の萎縮を防ぐ効果があることも、さまざまな研究で分かっています。
そこで日常生活にストレッチを取り入れてほしいのですが、始める際には注意事項があります。まず、どこか痛む部位があれば、入浴などで体を温めて痛みを和らげておくといいでしょう。次に、伸ばす筋肉がどことどこをつないでいるのかをイメージすると効果が上がります。

とても大事なのは自然な呼吸です。息を止めず、普段よりゆっくりと呼吸しながらだと、より効果が出ます。また、勢いよく筋肉を伸ばすと逆に縮もうとする作用を生みます。動作もゆっくりと行ってください。

原教授の指導でふくらはぎストレッチをする講座参加者

どのくらい体を曲げられるかなどを、他の人と比べる必要は全くありません。大事なのは自分の筋肉が伸びていることです。強い痛みに耐える必要もありません。けがの治療歴や体調などを考慮し、決して無理をしないことが大切です。
週に2、3日でも構いません。一つの筋肉に対して左右それぞれ15〜30秒で3回ずつ反復するのが効果的ですが、できる範囲で少しずつやるだけでも効果はあります。転倒を防ぐため、まずはお風呂上がりに5分間でも継続してみてください。

やわらかいものをイメージして 転倒を防ぐためのストレッチ

原教授が効果アップの“こつ”に挙げたのが、やわらかいものを思い浮かべること。「プリンでもクッションでも何でも構いません。目を閉じて、やわらかいものをイメージしてください」。すると体全体の力みが減って前屈などの計測値が上がるといいます。一方で硬いものをイメージすると逆効果。同様に「痛みに耐えて顔をしかめ、息を止めながらでは効果が出ません。リラックスすることが大事です」とアドバイスしました。

お尻

お尻には大殿筋(だいでんきん)だけでなく、深層にさまざまな小さい筋肉があり、これらの不調が脚のしびれの原因になることがあります。その予防にも効果があります。

1.椅子に浅く腰かけ、片方の足のかかとを反対側の膝の上に置く。
2.呼吸を止めず、ゆっくりと体を前に倒す。

太ももの裏側

もも裏には内側と外側の筋肉があり、どちらかだけが硬い人もいます。硬い方の筋肉をより伸ばすため、太ももを内外どちらかに回して前傾するのも有効。

1.浅く腰かけ、つま先は楽にして片方の脚を伸ばし、背筋を張って体を前に倒す。
2.もも裏が張ったら、ゆっくりと呼吸しながらその状態をキープ。

太ももの前側

膝の調子が良くないときは太ももの外側の筋肉が硬くなっていることが多いようです。引くときに膝が外に開いていると、外側の筋肉があまり伸びません。

1.立って椅子の背に手を置き、片方の足をつかんでゆっくりとお尻に近づける。
2.バランスを崩さないように気を付けながら、そのまま膝を真っすぐ後ろに引く。

ふくらはぎ・膝

歩行時に膝を伸ばして足をつくと、膝(しつ)関節にねじれの動きが起こらず膝を痛めにくくなります。また、立ったときに膝が曲がっていると背中が丸くなります。膝を伸ばすのに効果的なのが、ふくらはぎのストレッチです。

1.椅子の背を持って立つ。
2.後ろに引いた脚のかかとを浮かさずに前傾する。つま先の向きを必ず真っすぐに。

胸・背筋

胸の筋肉が硬いと背筋の伸びの邪魔をします。肘の高さを変えて、バリエーションをつけると効果が上がります。

1.肘を肩の高さに上げて直角に曲げ、壁に付ける。
2.付いた手と同じ側の脚を一歩前に出す。
3.肘の位置は留めたまま、体を少し前に動かして胸の筋肉を伸ばす。

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