【専門家インタビュー】「肝炎体操」で脂肪肝対策、食事内容も見直しを

年々増加の傾向にある「脂肪肝」。人間ドックや健康診断を受診した成人の約25~30%は罹患(りかん)しているといわれています。放置すると肝硬変や肝がんなどに進行する危険性があるだけでなく、大腸がんや膵臓(すいぞう)がんなど肝臓以外の臓器の発がんにも影響します。そこで今回は脂肪肝にならないための予防策、脂肪肝と診断された場合の改善策として、「食事と運動」について久留米大学医学部内科学講座 消化器内科部門の主任教授・川口巧氏に解説していただきました。

話をうかがったのは?

1970年生まれ、95年久留米大医学部卒、99年同大大学院医学研究科修了、2000~02年米国テキサス大サウスウエスタン医療センター留学、02年久留米大医学部内科学第二講座助教、07年同大医学部内科学講座 消化器内科部門講師、20年同准教授、22年同主任教授

久留米大医学部内科学講座 消化器内科部門
主任教授 川口巧氏

目次

食べ過ぎや果糖に注意! 魚介類や豆類を積極的に食べよう

―やはり脂肪肝の原因は食べ過ぎなど食生活にありますか。

食べ過ぎは脂肪肝の主な原因ですが、それだけでなく、早食いや欠食、炭水化物の取り過ぎなども重要な原因です。その他の原因には「果糖」があります。果糖は体内に吸収されやすい糖なので、果物の食べ過ぎは控えたいですね。また、果糖は清涼飲料水や菓子類にも含まれているので、これらの食品も注意していただければと思います。

―積極的に食べた方がよいものがあれば。

サバなどの青魚には、中性脂肪を減らす効果のある栄養分が含まれているためお薦めです。また、地中海食も脂肪肝の予防や改善効果があることが、多くの研究から明らかになっています。地中海食の特徴は、オリーブオイル、全粒粉穀物、魚介類や豆類を主体とした料理であり、これらの食品は抗酸化作用や抗炎症作用を有しており、脂肪肝の予防や改善に有効です。
また、ブラックコーヒーも抗炎症作用があるため、脂肪肝の改善に有効な食品です。ただし、砂糖やミルクを入れると効果が薄れるので注意が必要です。さらに飲み過ぎると血圧上昇や腎臓結石などにつながる恐れがあるので、1日2、3杯がよいでしょう。

―どれだけ食べるかだけでなく、何を食べるかも重要なのですね。

何を食べるか、食品の選択はとても重要です。食べ過ぎていないのに脂肪肝の方は、ぜひ、食べるスピードや食事の時間、食品を見直してみてください。

マイオカインを分泌するレジスタンス運動を

―運動については、どうでしょうか。

脂肪肝は肝臓に過剰なエネルギーがたまった状態です すから、継続的に運動し、余ったエネルギーを使うことで改善につながります。

また、私たち久留米大の研究チームが注目しているのが「マイオカイン」です。マイオカインとは、筋肉から分泌されるホルモンやペプチドといった物質の総称で、脂肪を分解する効果があります。運動、特に筋収縮が強いレジスタンス運動(筋トレ)により筋肉からマイオカインが分泌されることで、脂肪肝が改善すると考えられます。マイオカインの中には、がん細胞を殺したり、免疫を強化したりする働きを持つものもあります。

―筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動ですか。脂肪を燃やすのはジョギングやウオーキングなどの有酸素運動だと思っていました。

これまで脂肪肝の改善にはジョギングやウオーキングなどの有酸素運動が有効で、なおかつ30分以上続けなければ脂肪は燃焼しないといわれてきました。しかし、レジスタンス運動にも脂肪肝を改善する効果があることが私たちの研究でも明らか
になりました。有酸素運動でも、レジスタンス運動でも自分に合った運動を継続することが重要だと思います。

―レジスタンス運動、有酸素運動のどちらでもいいということですか。

はい。ただし、レジスタンス運動と有酸素運動を組み合わせるほうが、脂肪肝の改善にはより効果的です。効果を上げるためには、まずレジスタンス運動をして、その後に有酸素運動をすると効果が上がりやすいと考えられます。レジスタンス運動はマイオカインが分泌されやすく、その後に有酸素運動を行うことで長時間マイオカインが分泌される状態になるからです。ウオーキングだけでなく、その前にスクワットを10回行うだけでも脂肪肝は改善しやすくなると思います。

―ダイエットにも効果がありそうですね。

運動はダイエットにも効果的です。ただし、運動により脂肪肝が改善しても、体重が減っていない場合も多々あります。運動をしても体重が減らなかったからといって、決して悲観的にならないでください。体重が減らなくても、運動を継続することで脂肪肝は改善します。

肝炎体操取り入れて、無理なく週2時間の運動時間を確保

それぞれ10~20回を目安に、朝10分、夕方10分続けてみよう

―高齢者になると運動するのが難しくなると思うのですが。

高齢者を意識して、久留米大では「肝炎体操」をつくりました。背中、太もも、ふくらはぎを鍛える効果があります。広い場所や道具を必要とせず、その場でできる6つの運動からなる体操ですので、生活の中に取り入れやすいと思います。欧州の研究で週2時間運動すると肝がんの予防効果があると分かっています。肝炎体操の各運動をゆっくり10〜20回すると約10分かかります。毎日、朝夕1回ずつ行って1日20分、これで週2時間以上を達成できます。

―肝炎体操の効果はいかがですか。

患者さんに1回10分間の肝炎体操を試してもらい、その前後の血液を検査したところ、マイオカインの一つで、がん細胞を抑制する効果があるフラクタルカインの値が全例で体操後に上がっていました。たった10分の運動でも良いホルモンが出るということです。肝炎体操ががん予防につながるかは今後の研究課題ですが、期待が持てる結果ではないかと思います。

また、膝が悪くてウオーキングができない脂肪肝の患者さんが「肝炎体操」を1日10分、1年間毎日行ったところ、体操開始前は肝臓の硬さの指標であるFIB-4index(フィブフォー・インデックス)が高い〝危ない脂肪肝〞でしたが、1年後には FIB-4index も正常値まで低下しました。

―「肝炎体操」をする場合の注意点や続けるコツを。

体調が悪い時は運動を控えてください。また、関節や心臓、脳などに病気がある場合は主治医に相談を。
コツは、体操中に「今、この筋肉を使っているな」など意識すること。何となくやるよりも効果的です。継続の秘訣として、カレンダーに「○」など印を付けるなど見える化してはいかがでしょうか。○印が並ぶと達成感が得られますし、2、3日やらないと「そろそろ運動しなければ」という気にもなります。

さらに、家族や友人など記録を付けながら他者と一緒に行うことで、運動回数の増加が期待できます。また、日常生活の毎日行う習慣(歯磨きや入浴など)や毎日見ているテレビ番組に肝炎体操をセットにして、運動を習慣化されている方もおられます。肝炎体操は道具を必要とせず、その場でできる運動プログラムですので、生活の中に取り入れやすいと思います。

楽しく食べて動いて、健康を維持しましょう。同体操は久留米大のホームページなどで動画も公開していますので、ぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

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