【医学博士インタビュー】生活の質に関わる、トイレの回数大丈夫?

暑くなるこれからの季節、熱中症予防の観点からも水分を上手に取る必要があります。その一方で「トイレに何度も行きたくなると困る」と心配する向きも多いのではないでしょうか。「加齢に伴いトイレが近い、尿が出にくいなど、排尿に関するトラブルを抱える人が増えます」と話すのは、久留米大医学部泌尿器科学講座、主任教授の井川掌先生。中でも相談が多いという頻尿について、原因や対策を聞きました。

話をうかがったのは?

久留米大医学部泌尿器科学講座
主任教授 井川掌氏

「頻尿には単純な加齢による変化もあれば、がんや結石、感染症が隠れている場合も。
糖尿病や腎臓病など内科疾患による多尿かもしれません」

 1964年生まれ、88年長崎大医学部卒、94年同大大学院医学研究科修了、2000~22年米国ネブラスカ大医療センター留学、08年長崎大医学部・歯学部付属病院泌尿器科講師、09年同大大学院医歯薬学総合研究科 腎泌尿器病態学分野准教授、14年現職

目次

夜間のトイレ回数、1回以上で「頻尿」

―高齢になると気になる「頻尿」。そもそも頻尿とは、どれくらいの回数トイレに行くことを指しますか。

一般的には昼間に8回以上、夜間就寝時に1回以上の排尿回数がある場合に頻尿とします。ただし、夜に1回起きる程度だと睡眠を十分に取れるのでQOL(クオリティーオブライフ=生活の質)は阻害されず気にならないという人もいれば、1回起きるだけで体の調子が悪いという人もいて、個人差があります。夜間排尿が2回以上になると、転倒・骨折リスクも高まり、特に注意が必要です。

―頻尿の原因に挙げられるのは?

原因は多様で、過活動膀胱、多尿、残尿、尿路感染などの炎症、心因性などに分けられます。また、性別で傾向が違い、男性は加齢による前立腺肥大症を背景とした頻尿が多く、女性は過活動膀胱が多いです。過活動膀胱とは無意識に膀胱が収縮し、急に尿意をもよおしたり、頻繁に尿意があったりする症状です。
排尿に関わる症状は、尿意を我慢するのがつらい、尿が近いなどの「蓄尿症状」、尿が出にくい、勢いが弱いなどの「排尿症状」、そして残尿感や尿漏れなどの「排尿後症状」に分けられます。
膀胱には大体400〜500㏄ためられるのですが、膀胱の容量が低下する、血流が悪くて柔軟性が下がるなどで、そんなにためられなくなる。一方で、尿がどんどん作られる多尿の場合もあります。

―原因はさまざまなんですね。

単純な加齢による変化という場合もあれば、がんや結石、感染症が隠れている場合、内科疾患による多尿という場合もあります。糖尿病や慢性腎臓病になると尿が薄くなって量が増えるといわれています。

―排尿の回数が多過ぎると生活に支障が出ます。

特に夜間多尿による夜間頻尿は睡眠が阻害される場合も多く、患者さんからの訴えも多いので、最近重要視されるようになりました。これはメタボリック症候群や糖尿病、高血圧など内科的な疾患と関連があるとされ、泌尿器科と内科が一緒になった取り組みが進んでいます。

排尿日誌で確認、有効な体操も

―頻尿の予防策、対策はありますか。

原因によって変わります。夜間多尿の夜間頻尿であれば、食事や水分を取るタイミングや量に気を付ける必要もあります。脳梗塞の予防といって寝る前にたくさん水を飲む人もいますが、多く飲むとやはり尿量が増えます。また、食事の塩分を制限すると夜間尿量の減少にある程度有効とされています。

生活に支障がある場合は、大体1日の排尿の状態を知るために、まずは3日間の排尿記録をつけて状況を把握します。生活習慣を確認し、必要なら抗利尿作用のある薬の処方もします。膀胱がんや腎がんが潜んでいないかなどのチェックも必要です。

―尿意は少し我慢したほうがいい、と耳にしたことがありますが真偽は。

そのような膀胱訓練もあります。また、「骨盤底筋体操」は過活動膀胱や腹圧性尿失禁などに有用性が認められている行動療法の一つです。
軽・中等の症状の場合は体操のほかに、治療薬もあります。

自覚症状なくても前立腺がん検査を

「 腎臓や膀胱のがんの罹患者が増えています。血尿や検尿などで尿潜血が認められたら必ず泌尿器科へ」

―男性の頻尿の原因で最も多い前立腺肥大症についてお聞きします。

これも自覚症状に個人差があります。前立腺は正常時は20㌘くらいの大きさでクルミ大などと表現しますが、それが2、3倍になっても、その大きさと自覚症状は必ずしも比例しません。100㌘あるような大きな場合でもちゃんと尿が出る人もいれば、逆に40㌘程度でも、尿閉といって膀胱の出口が閉まって尿が出なくなる人もいます。

治療開始の一番の根拠は、本人が困っていること。肥大があり、自覚症状の訴えがあり、尿の勢いを測る「尿流量測定」で客観的に見て尿の勢いが弱い場合に治療を推奨します。生活指導をした上で治せる点は治し、その後に薬物療法、それでも駄目な場合に手術という順です。

―どんな自覚症状がありますか。

尿が出始めるまでに時間がかかるようになった、1回の尿量が少なくなった、今まで夜間1回も起きなかったのが尿意で起きるようになったなどですね。
また、自覚症状の有無にかかわらず、50歳を過ぎたら前立腺がんの検査を受けてほしい。その理由は、男性のがんの罹患率で前立腺がんがトップだから。福岡県でも各自治体が実施しています。治療も進んでいるし進行のスピードは比較的緩やかなので死亡率は低いですが、それでも年に1万人超も亡くなっている病気です。

―頻尿の向こうに病気が隠れているかもしれないということですね。

近年、腎臓や膀胱のがんの罹患者が増えているんですよ。血尿や検尿などで尿潜血が認められたら、必ず専門医へ行きましょう。

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この記事を書いた人

脳活、運動、食事、睡眠、社会参加、脳トレなどの普及・啓発活動による健康寿命の延伸・認知症予防の実現を目指す「脳活新聞」

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