本格的な熱中症シーズン前に身に着けたい「水分マネジメント」スキル

人間の体の大部分は水と塩分などの電解質からなる液体=体液からできています。この体液を失うことが、熱中症や身体の不調の諸原因になる脱水です。
つまり、体液の素となる水分を管理することは、熱中症対策になるだけでなく、健康的な生活を維持するために必要不可欠と言えます。

「栄養管理や体重管理と同等以上に『体水分マネジメント』を日常において意識することが、これからの季節の熱中症対策や健康管理に不可欠」と、脱水症に詳しい医師の谷口英喜先生。
今回、谷口先生が『体水分マネジメント』の正しい方法について解説します。

目次

体水分をマネジメントするという思考が大切

体液とは、一般的な成人で体重の約60%を占める体の水分のこと。水と塩分などの電解質からなり、「体温維持」「栄養素や酸素を運ぶ」「不要な老廃物を体外に運び出す」という、人間の生命維持活動に重要な役割を果たしています。

体液の3つの働き

1.生命活動に必要な栄養素や酸素を運ぶ

・呼吸で得られた酸素を組織に運ぶ
・腸で消化された栄養素を肝臓へ運ぶ
・嚥下咀嚼をスムーズにし、消化管内に食事を運ぶ

2.生命活動に不要な老廃物を体外に運び出す

・代謝で生じた二酸化炭素を、肺に移動させ呼気で運び出す
・余分な代謝水やアンモニアを尿として体外へ運び出す
・老廃物を便として運び出す

3.体温維持

・血管を拡張させ、暖かい血液を移動させて放熱
・発汗によって、打ち水効果で体温を放熱

体液は、毎日入れ替わっている

体において体液の占める割合は年齢によって異なり、成人で60%程度、細胞などカラダが未発達で水分が失われやすい小児の頃は70%程度、65歳以上の高齢になると50%程度です。
体液は血液、リンパ液、汗、尿、腸液、など様々な形で全身に存在しますが、いちばんの貯蔵庫は筋肉。
高齢になって体水分量が減少していくのは、筋肉量が少なくなっていくこととも関係があります。

体液は毎日入れ替わっています。そして、その摂取量と排出量は、ほぼ一定に維持できるよう調節されています。
1日の水分(水+電解質)摂取量は、成人は1500ml~2500ml。例えば2500mlなら、このうち約1000mlを電解質とともに食事から自然に摂り、エネルギー代謝によって300mlほどの代謝水が生じています。
それ以外に飲料によって1200mlを摂るのが一般的と考えて良いでしょう。

一方、1日の水分排泄量も1500~2500mlで、普段の生活の中で、排泄や汗、自然に肌や粘膜、呼気から出ていく不感蒸泄と呼ばれるもので水分が失われています。
毎日、私たちの体は、生命活動を維持するために体水分の出納バランスを常に保ってくれている訳です。

体液の摂取バランスが崩れ、不足した状態が「脱水」

普段の健康な生活では、体水分の出納バランスが取れていますが、状況によってこのバランスが崩れる場合があります。
例えば、気温が高くなったり、運動をして汗をかいたりすると、通常より失われる体液が増えていきます。下痢や嘔吐でも、体液である消化液が失われてしまいます。
この喪失量が多くなった状態で、その分の体水分が補われずバランスが崩れた状態が「脱水」です。

また、体の維持機能に支障を来すほど体液が失われた状態が「脱水症」です。脱水症になると、体の器官のうち水分を多く必要とする「脳」「消化器」「筋肉」などの臓器や体温調節機能に異常が発生し、これを放置してしまうと生命の危険に繋がることもあります。

脱水症の目安としては、体重の3~5%の体水分が失われると軽度、6~9%減少すると中等度、10%以上失われると重度と判断されています。
【教えて!「かくれ脱水」委員会】が定義している、まだ脱水症の症状が出る前の状態である「かくれ脱水」は、1~2%減少した状態のことです。

積極的に体水分の出納バランスを意識してクオリティ・オブ・ライフ向上を

積極的に体水分管理に臨むことが健康な生活の維持に役立ちます。毎日の水分の出納管理は、栄養やカロリーの管理と同じように、無理なく実行できること。
食事・飲料から、水と電解質を少しだけ意識して摂る。意識していることで、健康維持に繋がります。

自然な体水分管理は、1日3度の食事を栄養バランス良く摂ることで実現するのがベストです。
私たちは1日の生命維持に必要な体水分(水と電解質)の約半分を食事から自然に摂っています。
欠食することで、すぐに体調不良になることは少ないですが、ダイエットなどで、食事量を減少させたり、生活習慣から朝食抜きなどを重ねたりしている人は脱水リスクが高まります。

体水分マネジメントという視点では、以下のようなことを意識します。
・お酒を飲みすぎて大量に尿が出た日などは、少し多めに水分と電解質を摂る
・寝汗をかいたと感じる日は、朝食を抜かない
・特にのどの乾きを感じにくくなる高齢者は、時間を決めて、水分と塩分を少しずつ摂ることをスケジュール化しておく

体水分をマネジメントすることは、熱中症や脱水症の対策となることはもちろんですが、クオリティ・オブ・ライフを意識した暮らしを送っていくための大切な指針になります。

【監修】医師 谷口英喜先生

済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長
「教えて!『かくれ脱水』委員会」副委員長 医師 谷口英喜先生

谷口英喜先生

専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、TNT-Dメディカルアドバイザー。
1991年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。
著書/「熱中症・脱水症に役立つ 経口補水療法ハンドブック 改訂版」、『イラストでやさしく解説!「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』

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この記事を書いた人

脳活、運動、食事、睡眠、社会参加、脳トレなどの普及・啓発活動による健康寿命の延伸・認知症予防の実現を目指す「脳活新聞」

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